私には最愛の人がいた。
結婚という契約を結び、4年程共に過ごした。
趣味嗜好が一緒で、子どもはいないけれど一緒にいられれば充分楽しかった。
なんてことない日常が幸せだった。
休みの日は気になるお店に行き、注文した料理は分けっこするのが当たり前。
まったり過ごす日は食材を買い込み、一緒に料理をした。
くっついてテレビを見てケラケラ笑い、ツボが一緒の時は「わかってるね!」なんていいながらハイタッチした。

こんなに気が合う人はいない。
人生を共にする最高の相方だった。
来世だって彼と一緒がいい。
結婚して日を重ねても、その気持ちは変わらない。
もちろん小さな喧嘩はたくさんある。
それでも、都度ちゃんと向き合える関係だった。何歳になっても手を繋いで歩いいけるような、誰が見ても仲良し夫婦。

そんな私たちの終わりは突然やってきた。

ゴミから見つけた明細のような紙に「-194万」の文字。震えた

ある日、彼は仕事へ行き私は休日だった。
特になにかをする予定もなかったため、ひとりで車の掃除をはじめた。
普段は軽く外装を洗う程度だが、なんだか気が向いて中も綺麗にしたくなった。
私が普段開けることなんてないダッシュボード。
紙くずがいくつかあって、ゴミ袋に入れた。
ある程度納得するまで綺麗になったため、部屋に戻り休憩。
一息ついていると、ふと思い出した。
「最近、宝くじがあたった」と彼が喜んでいたことを。
紙くずの中に宝くじが混ざっていたら申し訳ないなと思い、ゴミ袋を漁った。

「え……?」
目を疑うものを見つけてしまった。

銀行の明細のような紙。
そこにに記載されている「194万」の文字。
その数字の前に「-(マイナス)」がついている。
状況が理解できなかった。
何かの間違いだと思った。
明細で見た事のない「借入」の文字。
震えた。訳が分からなかった。

仕事中の彼に明細の写真を送った。
返信がくるまで、ガタガタ震えて待つことしかできなかった。
不安で不安で仕方なかった。
少しして、彼から電話がかかってきた。
出たくなかった。
覚悟なんてできないままに電話に出る。
彼のひと言目は、「ごめん」だった。

借金があるのに二度とギャンブルしないと言えない彼。心の糸が切れた

そのひと言で全てが事実なのだと受け入れるしかなかった。
借金の理由は、ただただギャンブルだった。

趣味であることはもちろん知っていた。趣味の範囲なら咎める理由はない。
そう思っていた私がいけなかったのだろうか。

仕事から帰ってきた彼は、申し訳なさそうに「もう1つ借金がある」と言った。
そして、「借金が返し終わるまではギャンブルをしない」と。

ああ、この人とは一緒にいられない。
そんな額になるまで借金をしておきながら、もう二度とギャンブルをしないと言えない彼を許すことも、この出来事を一緒に乗り越えることもできないと思ってしまった。
心の糸がぷつっと切れる音がした。

それから数ヶ月を共に過ごしてみたが、1度切れてしまった糸を結び直すことはできなかった。
そして、私は別の道を歩みたいと彼に告げた。

別の道を選んだ。でも、でもね。やっぱり彼は最高の相方だった。

もう少しで、離婚してから1年を迎える。
今でも私は彼以上の人には出会えていない。
好きな人はできても、彼は特別なまま。
彼を愛しているのか、と聞かれるとそれは違う。
彼は私にとって身体の一部のような存在だった。
一心同体。
人生を共に歩む相方。

大切だった、幸せだった時間が借金という代価の上に成り立っていたということが許せなかった。
そして、彼の人生経験として離婚という事実が必要なのだと思った。
ちゃんと心に痛みを負ってほしかった。
同じ過ちを二度と繰り返さないために。
例え、いつか彼の隣にいるのが私でなかったとしても。
今の私は、昔のように彼を愛する自信がない。
乗り越える自信がない。
だから別の道を選んだ。

でも、でもね。
やっぱり彼は最高の相方だった。

「来世でもう一度あなたに会えますように」