誰にも言えない恋、それは幼馴染との恋。
始まりはちょっとしたこと。保育園から一緒の幼馴染なんて、付き合いが長いので好きになることなんてないと思っていたのに、中学3年生の時にクールな彼の態度に知的な一面が私の心をガッチリと掴んだ。その恋は初恋の甘酸っぱい気持ちをかき消すかのようなさらに甘酸っぱい恋となった。

中学生最後の恋。別々の道へと歩み出し、自然と連絡も取らなくなった

中学生最後の恋、受験勉強そっちのけで私はひたすらガラケーのメール受信を何度も何度も問い合わせた。
彼の家は割と勉強に厳しかったので携帯などほとんど使わせてもらえず、遅いメールの返信が来るたびに一喜一憂していた。

当時は学年の間で文通が流行っていたことにひっそり憧れを抱いていた私は、文通を提案することにした。帰りに下駄箱を開けると小さく折り畳まれた手紙に癖のある字が何度も私の気持ちをくすぐる。「本当は勉強してなきゃいけないんだけど、親から隠れて書いてる。これは秘密ね」。

初めてのふたりだけの秘密。なんだかいけないことをしている気分になった。放課後も夕暮れに照れされた2人きりの空間の教室で、手を繋いだり見つめ合ったりもした。どことなくふんわりと私は進展するものだと思っていた。

受験期が終わり、別々の道へと歩み出してからは自然と連絡も取らなくなっていた。それでも忘れられない私は葛藤に負けては自身の心が弱っている時に、助けを求めるかのように彼に連絡してしまっていた。

言葉が好きな私と、同じように言葉が好きな彼。彼なら私の気持ちを理解してくれると思っていた。
けれども、彼には大切な人がいた。
そりゃそうだよな、こんないい人だもん。周りが放っておくわけがないよな。と切ない気持ちを抱きながら、もう本当に連絡を取るのはやめようとLINEをブロックした。

彼の夢を見た。忘れられない彼に胸を焦がし、どうしても会いたかった

それから数年後、専門学校に入り彼氏ができた。とても大切で結婚するとまで思っていた。だが、そんな儚い想いも虚しく私たちはすれ違うことが増えていった。

ふと、そんな時連絡を取ることを諦めた今でもずっと忘れられない彼が夢に出てきた。
何回か夢で出てきた時、かろうじて別のSNSで繋がっていた彼に思い切って連絡をしてみた。
「あのね、実は夢に出てきたんだ。何をしたかは恥ずかしくて言えない」
彼は優しく受け入れてくれた。私はその出来事が伝えられたこと、久しぶりに話ができたことそれだけで幸せだった。

当時の彼ともうまくいかず、すれ違いの幅がますます広がる日々に彼からの連絡。
「あのね、俺もねあさひが夢に出てきた」
それから私たちはお互いの夢を見ては報告し合う仲となった。

私にも彼にも大切な人はいた。不思議な関係となった私たちは、次第に夢に出てくる相手に胸を焦がし会いたいと思うようになった。
本当はダメ、こんなこと。そんなことは分かっていた。
でも、それでもどうしても会いたかった。だから、会うことにした。

ドキドキが治まらない一世一代の恋。これからも頭の中には彼がいる

海外に留学していた私は日本に一時帰宅、大学に通う彼は彼女と住むアパートを離れ実家に帰省していたので、用事の帰りに彼に最寄りの駅まで迎えにきてもらうことにした。
電車を降りてから心臓の鼓動がゆっくりと頭にまで広がってゆく。久しぶりに会うのにどの車だか一瞬で分かった。

夢にまで見た相手が今目の前にいる、それを頭で理解すればするほど心臓が口から飛び出そうだった。その時の私はあまりにもぎこちなく、こんなにドキドキしたのはいつぶりだと思い返してしまうくらい。

帰りたくない私たちは、彼が車を停めた道の脇で白い息を吐きながら、澄み切った夜空を見上げ星を眺めていた。ふたりして「寒い、寒い」と凍えながら車に戻った時、私たちは見つめ合っていた。
心臓がこれでもかというくらいの速さで胸を打つ。人生で初めて心臓の音が外にまで漏れているような気がした。そのまま私たちはゆっくりと唇を重ねた。舌と舌をゆっくりと絡め合った。彼の手がゆっくりと私の膨らみに触れる。こっそりと私が待ち望んでいた瞬間だった。

だが、彼は「このままだと止まらなくなっちゃう」と言い、動きを止めた。
私も「うん...…そうだね..….」と返すと車が再び動いた。
それから家に着くまではあっという間で、とうとう家の前に着いた時、最後に私の方からキスをした。お別れのキス。「またね」と言って車を出た。

家に帰ってからもしばらく胸のドキドキが治まらなかった。
一世一代の恋だと思う。忘れられないのは私だけだと思っていたが、彼も同じよう。心沈む夜は、お互い連絡したくなる気持ちを堪えている。

きっとこれから先、私たちがおじいちゃんおばあちゃんになってもお互いのことは忘れない。いちばんになれなくとも、頭の中には私がいる。彼がいる。
私はそれを呪いと思う。だけど、そんな呪いでもいいと思った。相手が彼ならば。