駅で帰りのバスを待っている時、ふとホーム内のアナウンスが耳に入った。やさしく、透き通った声に、心を惹かれた。「ひとめぼれ」という言葉はあるけれど、声に惹かれた場合はなんと言うのだろうか。
高校2年生の秋、私は初めて恋をした
高校2年生秋、私は初めて恋をした。けれど相手は駅員さん。関わる機会はなく、恋も進展のしようがない。彼のアナウンスに、あの声に耳を澄ませることしかできなかった。それでも彼と話してみたい。
そんな思いを抱えた高校3年の夏、帰宅途中の電車に、ハートの形をしたつり革を見つけた。「あなたに幸せが訪れますように…」と書かれたピンクのかわいらしいつり革である。
「これだ」と思った私。一世一代の勇気を出して、「ハートのつり革を見たんですけど、どれくらいの確率で見れますか」と話しかけた。
彼と話したい一心だったのだ。これがきっかけとなって、彼に認識してもらえるようになり、利用者が少ないときに限って話をするようになった。
彼はあの声のように人柄も優しく、温かくて、話をしているだけで元気をもらえた。そのおかげか、受験生生活も楽しみながら乗り越えることができた私。
二度と会えないかもしれない好きな人に「好きだ」と伝えたくて書いた手紙
希望の大学に合格が決まり、県外で一人暮らしを始めることも同時に決まった。県外に行けば、彼と会うことは二度とないかもしれない。それならば、元気をもらっていたこと、好きだということ。これだけは伝えたいと、手紙を書いた。
恋愛初心者の私には、好きの先とか、付き合いたいとかは想像できなかった。だから渡したのは、ただ好きだという思いを伝える手紙だった。
受け取った彼は数週間後、「お手紙うれしかったです。気持ち、伝えてくれてありがとう。大学でもがんばってください」と、手紙に書いたメールアドレス宛に返事をくれた。私の初恋はやんわりと終わりを迎えたようにみえた。
けれど、諦めたくない思いもあり、大学入学後、「お久しぶりです」のメールを送った。やりとりを再開することに成功し、たまに近況を伝え合った。
儚く終わった恋。3年経った今もSNSのメッセージで連絡を取り合っている
3年経った現在も、SNSのメッセージ機能を使い、彼からフラッと連絡が来る。そのたびに少しだけ期待をしてしまう。
キュンが、恋心が復活してしまう。
だけど、忘れてはいけない事実があって、私はやんわりとふられている。
彼の行為は、残酷だと思う。でもいまだに、彼以上に好きになれる人とは出会える気がしない。それほど、彼を好きだった。彼に恋して、話せるようになって、連絡できる仲にまでなれた。幸せで楽しい片思いができたと、今の私は満足している。
ただ、どうしても納得できないことがひとつ。
彼と連絡のやりとりをはじめてから、3週間後に来たメッセージのこと。それはきっと、私がふられた理由。「俺、彼女はいるのよね。伝えてなくてごめん」。
教えてもらえなかった恋人の有無。だからこそいつか聞いてみたいことがある
思いを寄せる相手の恋人の有無は、何よりも大切で、知りたい情報のひとつだろう。私にとっても、彼女がいるという情報は何よりも大事だった。好きだと伝えた手紙に対する返事で、教えて欲しかった。
「彼女がいるから、あなたの好きには応えられない」と、どうして伝えられなかったのか。やんわりとではなく、きっぱりと私はふられたかった。
彼女がいる彼と、今もやりとりが続く。断ち切れない初恋。彼への思いもずっと宙ぶらりん。
いつか彼に聞けたらいいなと思う。私がふられた理由は彼女がいるからですか?