高校2年生の春、私はカンボジアへ2週間、ひとり旅に出た。小さい時から海外に憧れ、日本と馴染みがあって温かい人柄で有名な東南アジア、特にカンボジアにはずっと興味を持っていた。

カンボジア人のお兄さんに恋をして、初の海外で人生初デートの約束

そこで村の清掃活動、アンコールワット観光、孤児院訪問など、日本では体験することのできない特別な学び、体験をすることができた。さまざまな活動を通し、特に私が印象に残っている出来事は、カンボジアの伝統工芸であるシルクファームの織物工房へ訪問した時のことである。
そこには、丁寧に織物作業をする多くのカンボジア人がいた。その織物の美しさや真面目に作業する彼らの姿は、強く印象に残っている。それと同時に、私はそこで働く受付のカンボジア人のお兄さんに恋をした。
カンボジアの公用語はクメール語である。しかし、私はクメール語を喋ることができなかったため、お互いにカタコトの英語を使って自分自身のこと、母国のこと、家族のことなど、日が暮れるまで語り合った。
私たちはすっかり仲良くなり、後日、一緒にカンボジア料理を食べに行く約束をした。この旅は私にとって初めての海外、さらには人生初デートだったので、とても緊張したことを今でも覚えている。しかし、海外への憧れや東南アジアの男性はジェントルマンだという噂を聞いたことがあったので、心配より期待や好奇心の方が勝っていた。

素敵な食事のあと、ナイトマーケットで彼が私に差し出したもの

デート当日、日本から持ってきた小さいキャリーケースの中からお気に入りの白いワンピースを着て出掛けた。彼はTシャツに短パン、ビーチサンダルに手ぶら、というカンボジアスタイルで登場し、バッチリ決めてこない感じが私にとって魅力的に感じた。
地元で有名なカンボジア料理屋さんに入り、珍しい料理をいくつも注文した。カンボジア料理は日本人にも人気があり、私も美味しく食べることができた。
中でもアモックというカンボジアのココナッツカレーには胃袋を掴まれた。大きくて迫力満点のジューシーなチキン、ゴロゴロと入っていた名前も知らない野菜たち、初めて香る何種類もの香辛料やココナッツミルクの味わいには感動した。
他にもそこで食べた初めて聞く名前のご飯、スープ、デザート、全てが美味しかった。また、自分が異国の地に1人で来て、昨日出会った国籍の違う異性と2人でいることが信じられなかった。でも、それはすごく素敵な時間でもあった。
食事が終わった帰り道、カンボジアの有名なナイトマーケットに立ち寄った。そこにはカンボジアの伝統工業品、明るい屋台、観光客や楽しい音楽で溢れかえっていた。すると彼が急に、「Do you wanna try it?(君、これを試してみたい?)」と言って、串に刺されたゴキブリを差し出してきた。

名残惜しく見る写真に発見。恋はあのゴキブリのようにバリバリ砕けた

思考が停止した。カンボジアのナイトマーケットには様々なものが売られていて、中にはゴキブリやタランチュラなどの焼かれた虫が食用として売られているのだ。
びっくりしたが、隣で平然な顔でそれを食べる彼を見て、なんだかかっこいいと思ってしまった。もうお気づきだと思うが、私の感覚は少しズレている。
そして、私も食べてみた。パリパリとした羽の食感、無駄に硬くて噛みきれない細い足や触覚、塩胡椒が少しかかっているだけのシンプルな味付け、全てが忘れられません。彼も、外国人で食べたのは君が初だよ!と嬉しそうだった。
その日、私たちは連絡先を交換し記念写真を撮り、解散した。その後も彼と連絡をとりながら、あっという間に時間は過ぎ去り、帰国の日を迎えた。その日、彼は空港まで送ってくれて、私には言葉に表せない名残惜しさが込み上げていた。
最後、ハグをしてまた会う約束をし、私は飛行機に乗った。長いフライトの間、写真を見ながらこの2週間の思い出を振り返っていた。素晴らしいカンボジアの風景、そこで出会った人々、料理、そして愛する彼とのツーショット、を見ていた際に、頭の中が真っ白になった。
彼の左手のくすり指に指輪があった。なぜ、気づけなかったのだろうか。これを発見した瞬間、私の心はあの時食べたゴキブリの食感のように、パリパリ、いや、バリバリと散っていったのである。
これが私の決して忘れることのできない、カンボジアバリバリ物語だ。