来春に社会人になる私は、中学1年生から大学2年生までの8年間、あの人に片思いをしていた。男勝りな私が女みたいになれたきっかけで、今も私の学生時代のど真ん中に存在し続けている。
記憶から消えることも、過去を受け入れることもできず、もうすぐ長かった学生生活が終わろうとしている。

プロ野球命の私と野球部の彼は、好きな球団が一緒で仲良くなった

彼と出会ったのは中学1年生の春。3年間同じクラスで、後ろの名簿が彼だった。プロ野球命の私と野球部の彼は、好きな球団が一緒で「男友達同士」として仲良くなった。
彼は女慣れしてなくて、ぽっちゃり体型でエクボが似合う、自然とクラスの中心にいるような存在だった。女子の群れが苦手な私にとって、彼と野球の話をするのが学校に行く理由で、いつの間にか異性として意識するようになった。
女に認定されたくて、ショートヘア、センター分けからロングの前髪ありに、スニーカーからローファーに変わり、男みたいな発言もやめた。その努力の甲斐あってか、中学3年生の時に両思いだと判明。「高校生になったら付き合おう」と約束をした。
中高一貫校のため、9割の生徒は付属高校に進学する。今まで毎日喧嘩をしてバカにし合っていたのに急に付き合って、周りに冷やかされるのが嫌でそう約束をした。

しかし、彼は付属の高校に進学しなかった。付属高校では進学コースは野球部に入れなかったから。野球も勉強も頑張りたい彼は、外部進学を選択した。
その事を聞かされた時、当たり前のように一緒に高校生活を送れると疑わなかった私は、意味が分からなかった。想定より早まったお別れが辛く、あの時の約束も無効になる気がして怖くなった。
どうせなら玉砕してやろうと思い、振られる覚悟で卒業式の後に手紙で告白することに。すると、正式に付き合えることになった。嬉しすぎて数日間ニヤケが止まらなかった。

念願の交際も、ハードな部活生活と私の自信のなさですれ違っていく

しかし、違う学校に通い、野球部と吹奏楽部のハードな生活の中での交際は簡単ではなかった。デートは何度も部活で延期になり、忙しさから連絡も疎遠になっていった。久々に会えても相棒期間が長すぎて、お互いぎこちなかった。
そんな関係にトドメをさしたのは、私の自信のなさだった。付き合ってから一度も好きと言われず、自分ばかり好きな気がして毎日不安だった。
同情かな?こんなオトコ女を好きにならない。そんなマイナス思考に潰されそうになった。
付き合う前は毎日バカみたいなLINEをしていたのに、連絡が途切れるのが怖くて彼に合わせたことばかり送っていた。
このままじゃダメだと思い、勇気を出して「私のことどう思ってる?」と聞くと、彼に「分からない。毎日に必死で考える余裕がない」と言われた。
ショックだった。誘導尋問のように会話を運び、少しでも気持ちがあるなら「好き」と言ってもらえる計算だったのに、返ってきた言葉は「わからない」だったから。
数週間悩んだ末に、負担になるのも、嫌われるのも、振られるのも怖くて自分から「友達に戻ろう」と告げた。
会ったのは4回、電話は3分、手も繋がないまま5ヶ月で終わった。

プレーを見て、ファンになり、活躍する姿を見るだけで幸せな気持ちに

連絡を取らないまま迎えた高校2年生の秋、彼の高校の野球部と私の高校の対戦が決まった。私にとって念願の対戦だったため、電車で3時間かけて球場へ。
結果は私の高校の圧勝だったが、この日私は彼のプレーの「ファン」になった。身近なプロ野球選手のような存在で、「ファン」という言葉が何よりもしっくりきた。
中学の頃、怪我や病気で思うようにプレーできないことに悩んでいた彼が、チームの主軸として活躍している姿を見ると、元気をもらえて幸せな気持ちになった。それ以降、普段は音信不通だけど試合前だけ連絡を取るようになり、そんな関係が大学生になっても続いた。

理解されないだろうと思い、この気持ちは誰にも話せなかった。
しかし大学2年生の夏、中学からの友人に気づかれ、「元カレでファンって何?それは好きやで」と言われた。試合を観に行っても話したいとか、気づかれたいとは思わない。ただプレーしている姿を見たいだけだけど、彼以外好きになったことがない私は、「そうか、まだ好きだったんだ」と感じるようになった。LINEをしたり、食事に行ったり、球場以外での数年ぶりの会話はなんともぎこちなく、結局野球の話題で落ち着くことも。
何度会っても、誰に相談しても、恋なのか憧れなのか分からなかった。ただ中1の時から8年間想い続けてきたことは確かだった。
また付き合えるとは思っていない。でも次に行く前に、直接ごちゃまぜの気持ちを伝えたいと思い、20歳の同窓会の後にもう1度想いを告げた。
返事は予想通り、「野球に集中したい」だった。別れた時も、振られた時も、最後まで野球に勝てなかった。野球を憎み、でも嫌いにはなれなかった。

11年目の秋、彼の大学生活そして現役最後のプレーをみたくて球場へ

振られてからみんなに「他にいい人がいるよ」と言われた。彼以外の恋経験がないことに悩み、新しい出会いを開拓したが、トキメキさえ感じなかった。
「彼の生活から野球がなくなれば、また可能性が生まれるのでは?」と思った時もあったが、「将来は野球関係の仕事がしたい」と真っ直ぐに教えてくれた彼を見て、この人の人生から野球はなくならないと感じた。そして何より、野球があったから私たちは深く関わることができたことを思い出した。

振られてから2年半後、出会って11年目の今年の秋、私は球場にいた。
彼の大学生活、そして現役最後のプレーをどうしてもみたくて、彼にも誰にも内緒でこっそり観に来ていた。

試合を観に行ったことは、今も誰にも話していない。きっと共感してもらえないだろう。
野球で繋がってた私たちの中からそれがなくなり、もう二度と連絡を取ることも、会うこともないと思う。
もうパワーを貰えないんだなと思うと寂しくなるし、これから先この11年間みたいに本気で人を好きになれるか分からない不安にも襲われる。1日でも早く、彼の存在がなくても生きていける女になりたい。
それでも、ほんの少しだけ、いつかもう一度縁があるといいな、と願う自分もいる。この11年間に一切の後悔はない。彼に出会えて本当によかった。