出会いは中学1年の春、体育館。その人が私と同じ卓球部に入ったことから始まった。
ただの隣のクラスの男子で、たまたま同じ部活に入っただけ、私にとってその人は、そんな存在だった。同じクラス・同じ部活の男子とふざけて、おちゃらけているくせに、一丁前に器用だったのを覚えている。そいつに対しては1年半何とも思っていなかった。
中学2年の9月、私とそいつがそれぞれ女子キャプテン・男子キャプテンになった。形式上、チームは違えど同じ立場、それだけでなぜか私はそいつのことが「気になる存在」になってしまっていた。単純に話す時間が少し増えただけなのに。「共通項」が増えただけで、なぜかそいつとの距離が近くなったような気がしていた。でも私がそう思っているだけかもしれないし、あいつは全く気にも留めていないかもしれないし、と。そういい聞かせて過ごしていた。
でも時を一緒に過ごしていくうちに、意外としっかりしているところや、後輩に信頼されているところ、あいつのいい所をいくつも見つけて、気づいたら惹かれて、あいつのことを考えている時間が増えていた。

好きな人がいるか聞くだけだったのに聞き返され、胸がひゅっと苦しい

季節が進み冬になり、また春になり、夏になると、部活もクラスも一緒の親友からある事実を打ち明けられた。
「私、あの人のことが好きかもしれない。ねえ、好きな人がいないか聞いてみてよ」
こう言われるかもしれないってことは、うすうすわかっていた。あいつが他の女子と仲良さそうにしていると、親友は決まって私のところに泣きつきに来たから。あいつのことが気になっているということも、中2の冬にはきいていた。そりゃあ知りたいよねって。自分じゃなかなか聞けないよねって、親友に共感していた。
中3の夏休みのある日、部活が始まる前、部室に用具をとりに来たあいつにきいた。
「ねえ、すごい突然かもしれないんだけどさ。今、好きな人っている?」
「いないよ」
なんだ、そのまま親友に伝えられるじゃん、そう思った瞬間、
「おまえはどうなんだよ、いるのかよ」

世界が一秒だけ、止まったような気がした。ひゅっと胸が苦しくなった。親友の思いを一番そばで聞いていたのは私だから、だから、
「い、いないよ」

そっと、あいつへの想いをこころにしまった。

もしも「好きな人、いるよ。今目の前に」そう言ったなら、どうなっていただろう。何度もその想像をしたけれど、結局私は友情をとったのだ。

私が通っていた学校は中高一貫で、私もあいつも内部進学をして高校生になり、部活もそのまま卓球を続けることにした。高校では3年間同じクラス。顧問は私たちを前に、「勉強も卓球も、切磋琢磨するように」そういった。私も、「同期」として、付き合っていくと決めていた。はずだった。

後輩の彼氏はあいつ。その報告に「おめでとう」って、言えなかった

高校生になって一年が過ぎたある日、いつものように部室に行く。一つ下の後輩達が待っていた。彼女はうきうきした顔で言う。
「先輩!私、彼氏できたんですよ!誰だと思います?」
いくつか名前を出していく。でも誰でもない。
「一こ上か……」
「部内ですよ!」
その一言で、1人に絞られた。
「えっ…まさか?」
「はい」
照れた顔で彼女は言う。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた気がする。後頭部を殴られたぐらいの衝撃を感じていた。マジか!!!としか言えなかった。
「おめでとう」 って、言えなかった。気づいてしまった。私はあいつが好きなのだと。
そんな顔をした私を、彼女は見て見ぬふりをしてくれた。
そんな中で迎えた秋の遠征試合。スタンド席、隣同士に座る2人に、少しの甘い雰囲気を感じて、いいなぁと思ってしまっていた。
また、私は自分の想いを、胸のうちにしまい込んだ。
どこまで進展したとか、別れたとか、2人に全く聞けなかった。ただ、私は彼女と同じチームで団体戦に出ていて、かつ同性で。あいつとは同じ学年同じクラスで昼間時間を共有していて。2人の間の、ちょうどいい緩衝材になれるんじゃないかと、今思えば愚かな期待をしていた。

卒業してもなお、あいつへの想いは燻り続け、いつも考えてしまう

卒業式、勇気を出して、やっとのことでアルバムに寄せ書きを書いてもらった。「部活とかいろんなところでお世話になりました。おかしかったけど面白かった!」
あいつらしくて、おかしくて、少し、切なくなった。
卒業してもなお、あいつへの想いは燻り続けた。つながりを消したくなくて、中1から年賀状を出すのをやめられなかったし、あいつの住んでいた町の駅を通るとあいつのことを思い出すし、どこかにあいつがいるような気がして、いまだに声を覚えている。
卓球部のメンバーでご飯に行こうとした日がたまたまあいつの20歳の誕生日で、用意していたのに渡せなかったプレゼントもある。集合場所について、二人きりなら、渡そうと思っていたのに。
就活中にあった高3のクラス会の後、すでに一人暮らしをしていた私は、あいつと帰る方向が重なり、一緒に電車に乗って帰っていた。そのことにひそかに喜びを感じていたことも忘れられない。それから2年経ち、就活が終わった後の卓球部のみ会でも、あいつが「どこに就職することになった?お母さんがきいとけって」なんて言うから笑ったら、「だって6年も一緒にいたんだから」って余計に苦しくなる。そんなこと言われたら。

いい加減、誰にも言えなかったこの思いに、決着をつけなきゃいけない。