究極のアウトドアを楽しみたい。仕事への緊張で梅干しのように引きつった面持ちのまま、真逆の解放区を夢見ている。
私はビルの人混みの隙間を縫って歩いていた。早朝の駅に向かわなければならないのはバイオリズムに組み込まれていて、地面を叩く足音が忙しなく聞こえてくる。
ヒールと革靴の不協和音に混ざりながら、群体に溶け込む安心感と、思いきり美味しい空気を吸いたい気持ちに駆られていた。

先入観を捨てて自由を感じられる旅。思い立って一人で青森県へ

先入観の上着を捨て、自由を感じられるもの。それが私にとっては旅行だった。いきなり思い立つものだから、友達と予定を合わせるまでもなく、一人旅を選ぶことがある。
またいつものありきたりな休日にするか?何度も自分と押し問答の末、一人旅を決意した。
せっかくならグルメはもちろん、観光もしたい。早速行ったことのない県を検索。旅行サイトのグルメスポットで印象深かったのは、青森県の魚菜センターだった。
どうしてもおいしい海鮮丼を食べてみたい。同乗者がおらず、速度制限のない一人旅を描き始めると、究極のアウトドア感が出て妙にわくわくしてくる。

新幹線に乗り、本当に着けるのか心配しながらも、やっと着いた青森駅。空の広さに思わず伸びをした。駅舎は真っ白に塗られ、青空がよく映えている。想像を遥かに超えるモダンな造りに驚いた。
旅行先で迎えた翌日の朝。私は自由闊達に歩いていた。早朝に向かわなければならないのは、バイオリズムに組み込まれた駅ではない。地面を叩く足音はヒールと革靴ではなく、長靴だ。威勢の良い声も聞こえてくる。どこにも溶け込まない私は、あの梅干しの顔が消えていくのを感じた。

解放区に到着。楽しみにしていたのは新鮮な「のっけ丼」

ついに解放区に到着である。ここは、魚菜センターという市場だ。今朝水揚げされた魚が、パンパンに空気を入れたビニール袋の中でふうふう呼吸している。新鮮だと思うと同時に心が痛んでしまう。
大地の恵みに感謝しながら、楽しみにしていたのは「のっけ丼」。10枚綴りのチケットをタコは1枚、中トロは2枚のような形で、市場の方に渡す。すると、彩りにあふれたヤリイカ、エビ、マグロ、タコ、イクラがたっぷりと器に乗せられていった。きらきらしてこぼれそうなイクラに息を飲む。
いざ食べてみると、信じられない美味しさに白目が大きくなった。つるんとして一切の生臭さがなく、ぷちぷちと破裂して、汁まで喉越し爽やかである。ぷりっとしたエビの食感は、今にも口の中で暴れそうな鮮度を感じさせた。マグロは、始めから自分の臓器かと思わせるほど舌に馴染む感触で、醤油をつけず旨味を楽しんだ。

初めての場所へ冒険したから、至福の時間を過ごせた

自分がスーパーで買った刺身とあまりにも味が違うので、勝手ながら日常で食べているものはなんだったのかと絶句してしまう。
旅行先で食べた「のっけ丼」は、ぶっちぎりの解放感があった。思い切って初めての場所に冒険したからこそ、得られた至福の時間。忘れられない記憶として体に染みわたっている。
近くに三内丸山遺跡があったので、そちらにも向かった。ガイドさんから、縄文人が魚や貝を獲って食べていたと伺う。最高の環境だ。縄文人は間違いなく舌が肥えている。
しかも、身分制度がなく、おおよそ30代までの人々で集落が構成されていたらしい。皆アクセサリーを身に着け、おしゃれな髪型をしながら緩く暮らしていた。それが1万年もの期間続いたという。
私がずっと望んでいたのは、縄文時代への無意識の回帰なのかもしれない。