大学時代は4年間、寮生活をおくっていた。八畳一間の3人相部屋生活は同室の人に恵まれたのか、お互いに案外ドライで暮らしやすかった。
とくに一人暮らしをしたい訳でもなく、卒業後は工業地帯で就職先も豊富にあった実家に戻った。
びっくりした、とても窮屈だった。
家族の仲は良いけれど、少しずつ感じる窮屈さ。私らしく暮らしたい
家族の仲は良いと思っている。天気の良い週末は父の運転でドライブに行ったり、週に一度は母と一緒に茶道を習ったりしている。
真面目な父と優しい母の、ごく普通な家庭。元々口煩く言われた記憶が殆どない。勉強しろともあまり言われなかった。だから実家を窮屈に感じたことはなかったし、窮屈に思うとは思わなかった。
最初はお弁当。母が作ってくれたのだが、先輩や上司がお昼に外へ誘ってくれることが増えた。母にはお弁当は要らない旨を伝えた。
ところが何故か、毎朝用意してくれる。食べなくてもいいし、お弁当が必要な日もあるでしょう?と言ってくれたが、正直申し訳なくて、言い方は悪いけどありがた迷惑だった。
次に部屋のインテリア。YouTubeを見て憧れて自室の壁にポストカードを貼っていたのを、オシャレな部屋でもあるまいに、と茶化された。
少しずつ窮屈に感じた。そして高校時代はほとんどジャージで過ごしていたが大学ではスカートやワンピースを好んで着ていたから、休日にワンピースを着て家の中をふらふらしていると、「そんなにおめかししてどこ行くの?」と言われた。前髪を巻いていると「デート?」とも聞かれた。
何でもなくてもオシャレしたいこともあるのに。悪気も他意もないのは分かっているけれど、私らしく暮らしたいな、と思うようになった。
一人暮らしは実家から車で30分の場所で。両親のことは愛してるけど…
そして3年前から、実家から車で30分程度の場所で一人暮らしをしている。
多分、大学も実家から通っていたらこの窮屈感も気にならなかった。一度外に出て「わたしの家」以外の暮らし方を知ってしまった。それまで両親の価値観の中で暮らしていたのに親元を離れて視野が広がり、その結果の窮屈感だったのだろう。
寮生活での他人との距離の取り方の方が、実家での家族との距離の取り方より簡単だったように今なら思う。
もうすぐ30になる。最初両親は私に恋人が出来たから家を出たのだと思ったらしい。最近は結婚しないのなら帰っておいで、と言ってくる。愛してくれているし、私も愛している。
でもその想いが少しだけ重たいと思うのは、傲慢なのだろうか。
私は私を甘やかして、両親を愛したいから「一人暮らし」を選ぶ
一人暮らしの部屋は狭いけれど、ポストカードを壁に飾り、外出予定がなくても夜中に思い立ってペディキュアを塗り直せる私だけの空間。私は事務職なのでこれ以上昇格はないだろうし、お金を貯めるのなら実家の方がいいと思う。
職場でもよく実家の近くで一人暮らしなんて勿体ないと言われる。「実家暮らしは甘え」なんて言うけれど、私は私を甘やかしたいから、そしてこれからも両親を愛したいから、一人暮らしを選ぶ。距離を取ることで、素直な気持ちで愛せるような気がする。
遠方の大学に進学して最大の学びは、距離感についてだったのかもしれない。