人生とは何が起こるかわからないものだ。親友を好きな人のことを好きになろうとは。
昔、私は人の目が怖かった。自分の容姿でからかわれたり、いじめられることが多かったからだ。いじめの実態は大人達には理解されず、私の空耳や妄想だという人もいた。

たった一言で私の悩みを吹き飛ばしてしまう親友は、皆に好かれていた

いつの間にか私は、相手の目を見るだけで汗が吹き出し、思うように言葉は出ず、手が震えるようになった。自分の心を傷つける「人」という存在自体が信じられず、怖かった。その感情は消えないまま、都会に出て大学生になった。

その年の春、わたしは親友に出会った。
風が草を撫でるように私たちの間を通りすぎると、「気持ち良い!」と盛大に感情を出す。私が悩んでいると、「そんなに悩まなくても大丈夫だよ」とたった一言で私の悩みを吹き飛ばしてしまう、そんな人だ。

物忘れが激しくて「そうだったっけ?」と、過去に話したことをもう一度最初から話さないといけないこともあるけど、それも含めて皆から癒し系とか言われていた。彼女と話すうちに、私の「人が怖い」という感情は時々忘れることができた。

彼女は皆に好かれていた。その中に、私が好きになる人がいた。
物事を冷静に分析できて、私が悩んでいることがちっぽけなものだと感じさせてくれる。相手の悪い点は指摘しつつ、決して人の容姿で他人を区別しない人だ。

人が怖いことを初めて話したとき、彼は、私の存在を肯定してくれた

大学生になって3年目の夏、「飲みに行こう」と誘われて、飲みに行った。お酒につられて、お互い誰にも話したことがない話をしよう、という流れになった。
私は、今まで誰にも言ったことがなかった「人が怖い」事を話した。妄想や空耳だと言われたことも。話すことが苦手で、思い付くままに言葉を出す私の話を彼はしっかり聞いてくれた。

全てを話し終わったとき、彼は私の目を見て「そんな奴らの事は気にしなくて良い」と言ってくれた。否定ばかりされてきた私にとって、初めての自分という存在を肯定してくれる言葉だった。

とにかく嬉しくて安心した。彼の番になったとき、彼はわたしの親友が好きだという話をした。私は心から応援する!と思い、それを彼に伝えた。
彼の彼女に対する思いを知ったその日から、私の感情は二人が付き合えるように応援する気持ちと少しずつずれてきた。男や女の性別に関係なく、誰かに思われることを羨ましいと思った。

彼らへの未練を断ち切るために離れた都会。今、私の隣にいる人は…

羨ましい気持ちはそのまま、私たちの関係もそのままに大学卒業の春を迎えた。私はこれまで通っていた都会の大学から、新幹線で八時間の田舎に就職することが決まっていた。
彼女に対する未練か、はたまた彼に対する未練かわからないまま、この思いを立ちきろうと思ったのだ。わたしは縁も所縁もない田舎への片道電車に乗りながら、人嫌いの私を変えてくれた都会に別れを告げた。

今。私の親友を好きだった人は、私の彼氏になって四年がたつ。あの時感じた未練は、二人のうちどちらに対してだったのだろうか。答えはだせないまま、去年彼女は私の知らない男性と結婚した。人生とは何が起こるかわからないものだ。