多くの人には、サンタさんの存在を信じていた幼少期があったと思う。
私も例に漏れず、なんと小4の秋までサンタさんの存在を信じていた。
とは言っても、サンタさんが空飛ぶソリに乗ってやってくるとか、煙突から家の中に侵入してくるとか、そういったファンタジーやホラーを信じていたことは一度もなかったように思う。
ではなぜ、私は小4の秋までサンタさんの存在を信じることができたのか。そして何をきっかけに、サンタさん不在の真実を知ってしまったのか。
私のサンタさんにまつわる奇特な物語を、ここに綴りたい。

母の説明によると、市区町村に「サンタさん制度」があるらしい

「サンタさんってさ、実際はどうやって家に来るの?うちに煙突はないし、あったとしても煙突から家に入るって、普通に不法侵入だよね?」
この問いは、確か私が小学生になったばかりの頃、同じく小学生だった姉と共に放った、母への挑戦状だった。もちろん、当時の私たちにそんなつもりは全くなく、純粋な疑問をぶつけただけだったのだけれど。
でも、この問いに母はたじろぐことなく、事もなげにこう答えたのだった。
「夜遅くに、サンタのコスプレした区役所の人が、ピンポンして来てくれるよ」

当時の母の説明によれば、こういうことらしかった。
――それぞれの市区町村には「サンタさん制度」というものがあり、事前に登録をしておけば、希望したプレゼントを役所の人が届けてくれることになっている。でもこの登録は任意だから、「サンタさんなんていないよ」と言っている同級生の家庭は、おそらく登録をしていないのだろう――

我が母親ながら、なかなかうまいこと考えたなぁと思う。
そしてこの秀逸な嘘をすっかり信じた私と姉は、毎年クリスマスイブの夜に「ピンポンの音を聞くまで起きること」を目標にしていた。でもその目標は一度も達成されることはなかった。
そもそもピンポンは来ないし、私も姉もいつの間にかぐっすりと眠ってしまっていたから。

突然知る羽目になった母の嘘。自分で自分の夢をぶっ壊してしまった

このようにして私は数年間、区役所サンタの存在を信じていたわけだけれど、何の前触れもなく突然、それが嘘だと知る羽目になった。
というのも、サンタさんを信じていたことのある多くの人は「本当はサンタさんなんていないんでしょう?」と親に詰問することで、真実に辿り着いたのだと思うが、小4の私はまだそんなことはしていなかったのである。

発端は非常にくだらないことだった。
私が小3のクリスマスにサンタさんからもらったニンテンドーDSのカセットを、姉と取り合っていた時のこと。
「『私が』去年のクリスマスにもらったんだから、私のものだよ!私が使いたいんだから譲ってよ」
と、私は姉にシャウトしてしまったのだが、その仲裁に入った母の一言で、私は凍りついてしまった。
「それは実はママが買ったものなのよ。2人で仲良く使いなさい!」

このとき姉は中学生になっていて、もう既に母から真実を聞かされていたらしく、私は1人でショックを受けたのだった。
まぁそれも、もらったプレゼントを独り占めしようとしたツケが回ってきたということなのだろう。いずれ知ることになったとは言え、自分で自分の夢をぶっ壊してしまったこと、少しばかり後悔している。

区役所サンタの嘘は決して悪い思い出ではなく、あの頃が懐かしい

でも私にとって、区役所サンタの嘘は決して悪い思い出ではない。むしろ、ピンポンの音を聞くため、暗闇の中で姉と声をひそめながら「起きてる?」と会話をしたあの頃が、どうしようもなく懐かしいのだ。

現在の小さな子どもたちの中で、サンタさんを信じている子はどれくらいいるのだろう。信じている彼らは、「サンタさん」の所在や出没の仕方をどんなふうに解釈しているのだろう。
そして、もし私に子どもができたら、「サンタさん」についてどんな嘘をつくのだろう。

クリスマスの時期になると、私はいつもこんなことを考えてしまう。