私が幼い頃から、痔持ちである父はトイレの滞在時間にとても厳しかった。
実家は八王子にある団地で、私専用の部屋はなかった。だから、トイレが唯一の一人っきりになれる空間だった。
中学に入って、初めての彼氏ができた時、私はそれを家族に悟られたくなくて、トイレでラインを打った。好きという気持ちを伝えるのに、どんな言葉が一番良いのか、必死で考えていた。
「おい、そんなに長くトイレに入ってると痔になるぞ!!」
父の声は、いつも私のプライベートな空間に侵入してきた。狭い部屋も、痔持ちの父も、大嫌いだった。
2年前、私は大学生になった私は、年上の恋人ができて、家出みたいに実家を飛び出た。
最初は好きな人とずっと一緒にいられるなんて夢のようだと思っていたが、私の恋人はトイレのドアを閉めない。そこそこ広い部屋だから、こちらからトイレの中が見えることはないが、私の家じゃ、あり得なかった。
見える、見えないに関わらず、トイレのドアは閉めるのが当たり前だと思っているのに、何故か言えない。
しばらく会っていなかった家族に、会いたい。だが、何から始めれば良いのか分からない。
最初に、どんなラインをすれば良いのか、気付けばトイレの中で、スマホと睨めっこしている。
ぱぱ、私、いぼ痔デビューしました。