クリスマスが近づくと、私の心は少女のようにときめく。
小学生がサンタにプレゼントのリクエストをする方法は、どのようなものがあるだろうか。我が家ではリビングの窓を開けて夜空に向かって欲しいものを叫ぶのが習わしだった。
一戸建ての田舎だからできたことだろう。外に向かって「たまごっちがほしいー!」と、鼻の穴を大にして訴えれば必ず、欲しいものが25日の朝、ベッドの上に置いてある。サンタという人はおそらく相当に耳がいい。
それにしても、欲しいものを夜空に向かって叫ぶとはなんとも野生的だろう。野良猫も私の声に驚き体をぶるんと震わせた。

鋭敏な聴覚の持ち主サンタに物申したい。プレゼントの置き場所

うちの庭にはよく野良猫がいた。サラサラな砂に、柔らかい草。それはまるで砂漠と生い茂るジャングルのコラボであり、白状すると全く手入れされていない場所である。
そんなコラボ会場は、猫にとっては最上級のトイレであるが、クリスマス前はプレゼントを欲す奇声に猫は怯え、トイレはあいにく利用禁止となっていた。不憫な猫、いや庭である。

しかしそんな鋭敏な聴覚の持ち主サンタに、一つだけ物申したいことがあった。プレゼントの置き場所が全く考えものなのだ。朝、目覚めると枕元ならぬ、「足元」にそれは毎年置かれている。

腰をさすりながら子供達に届けているだろう、サンタには申し訳ないが、そこはドラマチックに枕元にプレゼントして欲しい。10代手前の少女は思った。
繁忙期のサンタはブラック企業で働いてるようなもので、紳士的な気遣いを見せる余裕がないのかもしれない。白髭のおじいちゃんサンタの労を幾ばくか想像したりもする。
しかし、私はまだキラキラの小学生だ。学校帰りに森へ秘密基地を作り、川へ魚つりに行き、自転車で4駅も5駅も離れたイオンモールにだっていく。体力自慢の少女にはサンタのような「働き者」の苦労など得手してわかるはずもない。まあ今年はあいにく忙しかったのだろうと、来年の枕元に期待してみる。

思い切ってサンタに伝えた欲しいプレゼントと「よければ」の要求

さて、その次の年のクリスマスも例によって、それは足元にあった。欲しいものをくれるサンタには言いづらいのだが、テレビのCMでは必ず枕元に置いてあるものだよ。
小さいことのように思われるが、当時の私には重大なことだ。もし、バレンタインの本命チョコレートが手渡しではなかったらどうだろう。アルバイトの控え室の隅に、その他の土産物と仲良く「勝手に持って帰ってどうぞ」と言わんばかりに追いやられていたら。

せめて手渡しで渡してくれれば、救われる男性もあろうに、わざわざ自分でとれというのだから、義理チョコというのに義理もない。それと同様に、枕元に置いてあるということは、アナタに渡しに来たんだよという想いがどうも伝わりにくい。
それなのに我が家では必ず足元にあいつはいる。おまけに私は寝相が良い方ではなく、そいつをベッドから蹴り飛ばし場外に放り出してしまった。これにはサンタにも責任があろう。
私はだんだん、躍起になって来年こそは枕元に、と願うばかりであった。

さあ、次のクリスマスは今までのクリスマスとは一味も二味も違う。お願いの仕方が悪かったかと省みて工夫することにしたからだ。私は例年ながら、窓をバンッと勢いよく開けて猫をビビり散らかせ、こうサンタに伝えたのだ。
「ゲームカセットをおねがいします!よければ枕元に!」
今思えば、しょうもないこだわりであるが、「いや、どっちでもいいでしょ」と断る意地悪なサンタがいようか。眠る身体の向きを逆にするという方法も思いついたが、北に頭を向けて寝るとと死んだ人と同じになって縁起が悪いと母に脅されれたので、耳ざといサンタに直接お願いした。

枕元に置かれていたのはメッセージカードで、プレゼントではなかった

12月24日、期待に胸がときめく。なかなか寝られない夜、それがクリスマスだ。
といっても、子供は大人ほど起きていられないから可愛らしい。どうしても寝苦しいといっても、大人の寝苦しさとは毛ほども違う。眠れないと言って水を飲みに行きベッドに戻れば、母も笑ってしまうほどの早さで寝息を立てたそうな。早寝遅起きがが子供の得意技である。

朝、目覚めると、お願いの成果あって枕元に何かが置かれていた。
何かというのは、つまりプレゼントではないモノ、英語で書かれた手紙。プレゼントであるべき、その手紙はまるでクレカサイズの赤色のヒラヒラなメッセージカードに変わっていた。

いや、私のゲームカセットはどこですか!
英語の読めない私は真剣に狂った。明らかにプレゼントの袋はなく、お布団の中をモグラのように彷徨って宝を探してみるものの、お眼鏡にかなうものは見つからなかった。
その絶望感たるや。もしやサンタは本当に「小さなことばかりにこだわるあなたには何もあげません!」と怒ってしまわれたのではなかろうか。
だとしたらプレゼントは……。スッと青ざめた私はわんわんと声を上げた。
父はそんな我が子の様子に驚き、あぁそう捉えたかと一瞬目を細めた後、その手紙の内容を優しく伝えてくれた。

《今年はそのプレゼントは人気だったので、後日お父さんと買いに行ってください、お金は振り込んだから。byサンタクロース》

それから学んだ話だが、今でも人から貰い物をした時は、どんな渡し方でもまず喜ぶようにしている。人に物をもらう以上「どんな包みでも、どんな渡し方でもたとえ置き場所がヘンテコりんな場所でも構いませんから」という態度で礼を尽くして欲しいものだ。
でないと、全てのサンタが変に苦しむことになってしまうから。