私は数年前、ブラック企業で正社員をしていた。
手取り15万の一人暮らし、人によっては「そんなの余裕じゃん!」と感じる人もいるだろう。ただ、私は自炊や家計のやりくりがうまくできず、非常に苦しい生活を強いられていた。
それも、お金が足りた月はまだいい。足りなかった月は、恥ずかしながら母に援助してもらっていた。家計簿も頑張って続けてみたが、単純に収入が足りないのであまり意味がなかった。

家計を圧迫する家賃に苦しみ、実家暮らしの人々に逆恨みの念を抱える

特に家計を苦しめたのは、家賃だ。大阪のワンルームマンションの6万あまりの住居代が、私のお財布をぎゅうぎゅうに圧迫してくる。窒息しそうだ。
私は次第に、家賃のかからない実家暮らしの人々に対して逆恨みの念を抱えるようになった。一人暮らしを選んだのは自分だけれど、一人暮らしを「せざるを得なかった」面も大きい。
私の実家はちょっとすごく田舎で、通勤圏内に自分に合うような会社はない。実家が都会にあれば選択肢も広がるのに……と、周囲の実家暮らしの人々を心の中でうらやんだ。そして、正社員なのに親に頼らざるを得ない自分を、すごくみじめに思った。

でも、嫉妬していてもお金は増えない。私は収入を増やす努力を始めた。
まず、仕事の合間にアルバイトを入れようとした。本業は朝から夕方までの事務職なので、夜の飲食店のバイトならなんとかなると踏んだ。
電車で行けて、会社の人に会わなそうな絶妙な距離感の居酒屋に恐る恐る応募してみたが、返事は来なかった。体力的に自信がなかったこともあり、ご縁がなかったんだな、とこの選択肢はあきらめた。

一人で生きていくために資格取得の勉強をし、転職活動も開始

次に、資格の勉強を始めた。一人でも生きていくには、手に職をつけなければいけない。そうしないと一生給料が上がらずこのままだ!そう考えていた。
さっそくネットで情報を仕入れ、本屋で参考書を物色する。とにかくブラック企業を早く辞めたかったので、比較的難易度が低くて独立もできる行政書士と、就職に強いと聞いたのでなんとなく簿記のテキストを購入した。仕事終わりに1日3時間の勉強が、3ヶ月も続いただろうか。行政書士は残念ながら落ちてしまったけれど、無事に簿記3級を取得することができた。

そして最後に、転職活動を始めた。資格の勉強と仕事を続けながらだったため、瀕死になりながら面接に足を運んだ。結果的には、サイトに登録して最初にスカウトを頂いた会計事務所への入社が決まった。
当時はまだ簿記も勉強中で資格なし、経験ももちろんなし、おまけに夜間の面接だったので仕事終わりに慌ててスーツに着替えてストッキングが破れていた。
にもかかわらず、雇って頂いたこの会社の上司に、今でも感謝している。なんと年収が150万アップし、一人暮らしでもようやく貯金ができるようになった。

私とは逆に、実家暮らしを「せざるを得なかった」人にも思いを馳せる

実家暮らしをうらやむ気持ちは完全には消えず、結婚して二人暮らしとなった今でも、「独身時代のあの頃、実家暮らしだったらどんなに楽だったか」と考えることがある。
でも私は、一人で生きていく力をつけようともがいた。今後どういう人生を歩みたいか、たくさんたくさん考えた。結果お金の知識を手に入れることができ、今後やりたい仕事の方向性も、少しだけつかむことができた。

そして、あの頃より少し大人になって、実家暮らしにも実家暮らしなりの苦労があるんだろうなぁ、と想像できるようになってきた。
家にたくさん生活費を入れなければいけなかったり、家族と折り合いが悪かったり、あるいは家族の介護をしなければいけなかったり。
それを考えると、私はずいぶん自由な暮らしをさせてもらったなぁ、とようやく気づくことができた。私とは逆に、実家暮らしを「せざるを得なかった」人たちにも、思いを馳せることができるようになった。

結婚してちょうど1ヶ月。これからの二人暮らし、あるいは子供ができて、三人暮らしや四人暮らしになっていったとしても、私は家族と幸せに暮らせる方法を常に模索しながら、そのときどきのベストバランスを探りながら、生活していきたい。