特集:家族に実は伝えたいこと

亡くなって知った学費の話。おじいちゃんに伝えたい「ありがとう」

家族に実は伝えたいこと

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祖父は寡黙な人だった。
挨拶をしても「おう」と返事するだけの、いわゆる「昭和の男」。子供のころ、月に一度祖父母に会いに行っていたのだが、毎月会っているのに全然距離が縮まらないし、何を考えているのか分からないので、私は祖父が苦手だった。

時が過ぎ、私が高校2年生のとき、祖父は病気になった。
その頃、大学受験前でなかなか見舞いに行くことができていなかった。久しぶりに会ったときにはすっかり小さくなっていて、当時の面影は残っていなかった。
祖父を見る私の眼差しはどのようなものだったのだろう。困惑と緊張が伝わったのかもしれない。
祖父は私を見るや「ありがとう」と言った。「見舞いに来てくれてありがとう」ということなのだろうか。いや、そのとき私にはもっともっと大きな意味で「ありがとう」と言ってくれた気がした。
びっくりした。祖父が私にそんなことを言うなんて。なんと言い返せばいいのか分からなかった。涙が出ただけだった。

大学に入学した年の冬、祖父は亡くなった。悲しかったけれど、あのときの「ありがとう」の一言があったから寂しくはなかった。初めて心が通じ合えたような気がしたからだ。
もう少し後になって、大学の学費は祖父が面倒を見てくれていたということを知った。自由に勉強が出来るようにと、貯金してくれていたらしい。私はどう感謝を伝えれば良いのだろう。
毎日ニ回、朝と晩に仏壇に手を合わせる。あのときの「ありがとう」も、学費のことも全部、感謝している。
伝わっているだろうか。届いているだろうか。
「おじいちゃん、ありがとう」

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