「生きてさえいれば、それでいいよ」
テレビで不幸なニュースが流れた時、母がぽつりと言った。いじめを苦に、十代の少女が自ら命を絶ってしまったのだという。最近こんなニュースばかりだった。
「わかってるよ」
母の顔を見ないまま、そう答えた。
大人は簡単に言うが、それがどれだけ難しいことか。家か、学校か。その二つしか世界を持たないこどもにとって、“普通に生きる“のはあまりにも難しい。自由にどこへでも行ける大人とは違う。
ニュースに感化されたのだと思っていたが、母の言葉は本心からのようだった。気分が乗らず休みたいと言うと、すんなり承諾してくれた。いつでも休めると思うと、多少嫌なことがあっても登校できた。
学校に馴染めなかったとしても、家に帰れば自分の居場所がある。それが当時の私にとってどれだけ大きなことだったか。母には感謝しきれない。
大人になった今だからこそ、分かることがある。世の中は大変広く、人の生き方も在り方も様々である。一番実感したのは、「たいていのことはどうにかなる」ということだ。
自分を脅かすものからはさっさと逃げてしまえ。きっと未来は拓ける。