Uターン就職をして実家に戻った。実家暮らしは、シンプルにありがたい。
毎日温かくて美味しいご飯を食べられて、毎晩ゆっくり湯船につかってリフレッシュできて、家事をしなくても怒られない、お金だって貯まる。
翌日仕事なのに朝まで飲み過ぎてしまった日ですら、帰るとお風呂と軽めの朝ごはんが用意されていて、何事もなかったかのように出勤できた。
見事に全てを母に甘えまくっている。アラサーと言われる歳にもなって、本当に恥ずかしいけれど。

実家暮らしのありがたさかは分かっているけど、正直、息苦しい

今のこの実家暮らしがどれだけありがたいことかは、大学時代に一人暮らしを経験しているから、分かる。嫌というほど分かっている。
だけど、正直、息苦しくなってきた。

そもそも甘やかしすぎなのだ。ひとり娘とは言え、私はもう27歳のいい大人。
赤子の頃とは違って、ちょっとやそっとのことでは死なない生き物になった。腹が減れば自分でご飯を調達させればいいし、飲み会でボロボロの状態でもそのまま仕事に行かせておけばいい。
多少放っておいても、大丈夫なのだ。

一方で、赤子の頃とは違って、いろんな葛藤を抱えるようにもなった。全部が全部、誰かに話せることばかりではない。ご飯も食べずに自室に籠ったり、お酒に飲まれてしまったり、一人でやさぐれたい日がある。
多少放っておいてくれないと、大丈夫じゃないのだ。

親からすれば、何歳になろうが子どもは子どもで、心配したくなる気持ちも分かる。うちの母は特に、昔から超がつくほどの心配性だ。
私が社会人になった今だって、ちょっと素っ気ない返答をしただけで、すかさず「何かあったの?」と声を掛ける。
だから私は「何でもない大丈夫!」といつも通り振る舞うしかない。

昔からずっと「心配をかけない良い娘」でいようと気を張ってきた。
何かあったとて、私より重く受け止めて余計に事をややこしくする母には、迂闊に話せない。かと言って「放っておいてくれ」なんて突き放すこともできない。
うん、とてつもなく息苦しい。

ちなみに私は今年の夏、重度の抑うつ状態という診断を受けた。
直接の原因は仕事。休職し始めてからすぐに心が軽くなったのだから、それは間違いない。

ただ(こんなこと母が聞いたらショックだろうけど)、実家の息苦しさが全く影響していない、と言えば嘘になる。
会社でも家でも、良い部下や良い娘でいようとずっと気を張っていた。その張り詰めていた糸が切れたのだと思う。
そんなに苦しいならさっさと実家を出ればいいじゃないか、という声が聞こえてくる。
私だってそう思う。でも心と頭がブレーキをかけてくる。

頭の中で繰り返される禅問答。「好きなようにする」と蹴散らせたら

何より、実家を出たい一番の理由が「息苦しさ」であることが、心苦しい。
でも、そんなことバカ正直に言わずとも、自立したいとか適当に理由をつけて出ればいい。
そう、その通りだ。

そんな心苦しさは、結局建前かもしれない。本当はシンプルに、一人暮らしが不安なのかもしれない。

心の病気で休職して大変なときに、何の不自由もない実家暮らしを捨てて、なぜわざわざ一人暮らしを選ぶのか。そう聞かれたら、口ごもってしまう。
「息苦しい」というだけで飛び出して、一人で健康的な暮らしを送れるのか、働いていないのに経済的に大丈夫なのか。そう聞かれたら、ちょっと自信がなくなる。
会社にもやんわり阻止された。うつっぽい私が一人暮らししたいなんて、変な気を起こさないか気が気でないのだろう。
でも、そんなことより「息苦しさ」がストレスという自覚があるのだから、早く出てそんなの取り除けばいい。

そう、その通りだ。でも……。

こんなふうに、頭の中で禅問答が繰り返される。
それらを全て「うるせえ!私の好きなようにするんだい!」と蹴散らせたらいいのだが、そうできるほどの心の強さはまだ取り戻せていない。
それでも、自由な一人暮らしへの憧れは尽きない。誰の目も気にせず自分のペースで過ごせるなんて、とてつもなく贅沢な暮らしに思えてしまう。

そんな憧れを胸に、もう少し私は実家暮らしに縛られてしまうんだろうな。いや、正確には私が私を縛り付けているだけなんだけど。
早くまた自由に飛び立てる強さを取り戻せますように。自分で自分の暮らしを作っていける強さを取り戻せますように。