私はもうすぐ30歳になる。
そして私は数ヶ月前に人生初の一人暮らしを始めた。

自分で自分の人生を歩んでみたい。その夢は簡単に叶えられなかった

一人暮らし自体は、もう何年も前からしたいと思っていた。
実家暮らしは貯金も出来るし、食事の心配もする必要はない。気ままな暮らしは楽で良いが、家族とはいえ誰かと一緒に暮らすことはやはり気を使うし、些細なことだが鬱憤も溜まる。
1人になる時間が欲しい。
気を使わずに暮らしたい。
そうした気持ちは勿論あったが、一番大きな理由は他にある。
私は、自分の足で自分の人生を歩みたかったのだ。

私は4人家族の次女であり、姉とは7歳歳が離れている。そのため幼少期は母親が2人いるような感覚だったように思う。
家族関係は良好だと思っているし、愛情を持って大事に育ててもらったと実感している。
しかし大事に、時に過保護気味と思われるように育てられた私は、自分のことを自分で決める力が弱いのではないかと、いつからか思うようになっていた。

それに加えて、学生時代に行った実習先の指導者からも「あなたは環境に慣れるまで実家暮らしの方が良いタイプ」と言われたことや、一人暮らしをしてみたいと話した相手から「でもお金貯まらないよ」「実家から通える距離なら実家の方が良い」「家族も寂しがるんじゃないの?」等との言葉を受ける度に私の意思は心の奥に隠し込まれていった。

常にくすぶり続ける一人暮らしをしたい気持ち。しかしそれを挫く外からの言葉。
勇気を出して「誰に何と言われようとも、絶対に今年には一人暮らしを始めるから!」と両親へ宣言した数年前。その時の戸惑ったような、寂しそうな表情で「誰も反対しないよ」と言った両親の顔は、私の一人暮らしを思いとどまらせるには十分だった。

長年の夢だった一人暮らしをスタート。当たり前のことが新鮮な毎日

それでも私は刻一刻と歳をとる。
結婚・出産と、新しく自分の家族を築き、着実に人生の歩みを進めている友人達。それとは対照的に30歳を目前にしても未だに実家暮らしの私。
人それぞれ事情はあるし、一概に言えないと頭では分かっているものの、仕事をしていること以外は学生の頃と何ら変化のない生活を送っていることに私は焦りを感じていた。

1ヶ月に光熱費がどの程度かかるのか。
1ヶ月の1人分の食費はどれくらいなのか。
掃除や洗濯等、家事の工夫や生活の知恵。
そうした暮らす上での大まかな経費や家事のこと等、人が生活するために必要な知識を30年近く生きてきても尚、私は何も知らないのだ。

祖母の病気や私の転職等、色々な要因が重なり一人暮らしを見送ってきたが、私が30歳になる今年。我が家を取り巻く環境はここ数年で最も凪いでいた。
機は熟したのだ。
改めて両親へ一人暮らしをしたい意向を伝え、不動産屋ともやり取りを開始した。両親はやはり「寂しくなるな」等と言っていたが、新生活に向けての準備も一緒に行ってくれた。
かくして長年の夢とも言える私の一人暮らしは10月から始まったのだ!

実際に一人暮らしを始めてみると、1人であることの気楽さと身の回りのこと全てを自分でやらなければいけない苦労を感じている。
帰宅しても誰もいない。私がやらねば勝手に洗濯が済んでいることもない。一人暮らしならば当たり前のことが、それが新鮮で、大変で、楽しい。

一人暮らしをして感じた自分の生活と、実家の両親への感謝の想い

今日の夜ごはんはどうしよう、帰りにスーパーに寄って何を買おう、冷蔵庫には何があったっけ?等々……ついつい仕事中に考えてしまうこともしばしばあるが、私は今、自分で自分の生活を回している感覚を確かに感じている。
実家にも割とすぐに帰れる距離のため月に何度か帰っているし、両親との関係性も変わりない。寧ろ離れたことで、実家での暮らしや両親への感謝の気持ちを改めて感じることが出来るようになったとすら思っている。

休みの日に作り置きのおかずを作っておいたり、欲しい家具を揃えたり、思い描く理想の一人暮らし像にはまだなっていない。しかし自分の城を築く楽しみを、悩みながらも体感するのも悪くないだろう。そんな期待に私の胸は膨らんでいるのだ。

私はもうすぐ30歳になる。
かがみよかがみにエッセイを投稿するのもこれが最後になるだろう。
私はようやく自分の足で自分の人生を歩み始めたことを、ここに記しておくとする。
人と比べるとスタートは遅かったかもしれないが、私の人生を進められるのは他の誰でもない。自分自身なのだということを、この先も忘れずに日々の暮らしを大切にしていきたい。