私はエンジニアになる。
デジタルなんて、大嫌いだけど。

この春、新社会人となる私が選んだ就職先は、IT企業だ。文系出身で未経験ながら、システムエンジニアへの配属が決まっている。自分で選択した結果だ。
でも、本当の私は、かなりのデジタル嫌い。なんとなく、デジタル化で社会が良くなるとは思えないのだ。インスタも使ってはいたが、キラキラした人々を見るのが嫌になってやめた。流行りのオンライン飲み会は、未だに慣れない。話すタイミングが掴めないし、大勢いても話すのは2~3人で「どうでもいい話を聞いている、この時間は何!?」と思ってしまう。

こんなアンチ・デジタルの私が、エンジニアになる。
それは、自由に生きるため。

母の機嫌を損ねないように、家事を手伝い、飲み会を途中で抜けた

心から望んでいるわけでもないエンジニアへの就職を選んだのは、一人暮らしをしたいから。新社会人のわりに給与が高いので、職場は実家から通える範囲だが、早々に家を出られる。ちょっと無理してまで一人暮らしを望む理由は、ありのままの私になりたいからだ。
実家暮らしは、確かにありがたい。母は欠かさず3食作ってくれる。洗濯もしてもらえるし、家はいつも綺麗だ。とても恵まれていると思う。

そんなデキる母に認めてもらいたくて、私はいい子であり続けている。反抗期はなかった。今でも、Youtubeが見たくても後回しにして、ごはん作りを手伝う。夜に洗濯する母に迷惑をかけたくなくて、飲み会には長居しない。感情的な母が機嫌を損ねるのを恐れて、なるべく波風立てないように細心の注意を払ってきた。

母の前では友人と電話もできなくて、私は私を見失った

その結果、私は家で仮面を被るようになった。家での私と、外での私は別モノ。最近は友だちと会えなくて寂しいけれど、電話はできない。母の前では、いつものように話せないからから。母に仮面はバレたくないし、友だちにも変だと思われたくない。

こうして自分を圧しながら生活しているうちに、私の頭は私の心がわからなくなってしまった。習字用半紙の表裏いっぱいに気持ちを書き出しても、「今、何をしたいのか」「今後どうやって生きていきたいのか」「好きなものは何か」まったく考えが浮かんでこない。心に灯るはずの炎が消えかけていた。
さらに、私は私を見失うようになった。母が仕事に行って家で一人になると、リミッターが外れて、エンドレスで食べ続けてしまう。間食に今川焼1個と板チョコ1枚とか、徳用サイズのコーンフレーク半袋とか、平気で食べ尽くす。それでも、用意される夕飯はすべて食べなくてはならない。あとから、食べ過ぎた罪悪感で自己嫌悪に陥る。この繰り返しだ。

母の隣にいる私でも、面接で語った私でもない、本当の私を手に入れたい

とはいえ母娘関係は良好で、一人暮らしに比べれば、実家暮らしは楽だろうと思う。「実家にいてお金を貯めてから、一人暮らしを始めたら?」と言われるくらいで、そこまで過干渉でもない。それでも私は、すぐにでも実家を出たくて仕方がなかった。
だから、エンジニアになって早く自立し、母と距離を置こうと決めたのだ。自由になって、好きに暮らして、こびりついた仮面を剥ぎたい。心に火をつけたい。素の私を抱きしめたい。

就職活動の面接では「デジタル社会に対応する人材となって、お客様の課題を解決するために働きたい」とアツく語ったけれど、本当の私が働く理由は違う。

私は私のために、働く。