あー、今年もクリスマスが来た。
彼氏できなかったし、イヴ当日に遊んでくれるほど親しい友達もいない。でも実家に帰るのはなけなしのプライドが許さない。ケーキ屋さんの単発バイトないかな。ケーキもらえるかも。
家族と過ごすクリスマスは「負け組」そんな価値観が変わった年がある
クリスマスが憂鬱になったのはいつからだろう。小さい子どもの頃は、ケーキやプレゼントを楽しみにしていたのに。
クリスマスを共に過ごす相手の選択肢に、恋人やサークルの友達が入りだした大学生からだろうか。これまで通り家族と過ごすのはいわゆる「負け組」だと思うようになった。それは大学生という年代のせいか、現代日本社会から刷り込まれた価値観せいかわからないが。
しかし、2013年のクリスマスは私を変えてくれた。クリスマスの過ごし方に勝ち負けなんてないのだ。
大学3年生の年、1年間イギリスへ留学した。私が留学した大学は、(どこも同じかもしれないが)秋と春の2学期制で、9月から2月までの秋学期の間に4週間の“Christmas Vacation”がある。現地の学生の多くはクリスマスを家族と過ごし、年末年始は友達とロンドンでの年越しカウントダウンを楽しむようだ。
一方で留学生には、休暇を利用してイギリスを飛び出しヨーロッパを旅行するのが人気だった。本場のクリスマスマーケットを見にドイツへ行った友達もたくさんいた。
ハリー・ポッターの大ファンである私は、イギリスのクリスマスを満喫することに決めていた。しかし、現地の友達は自分の家族と過ごす。恋人はいない。
さて、どうやってクリスマスを過ごそうか。
「クリスマスを我が家で過ごさないか」のお誘いに、乗らない手はない
キリスト教系の幼稚園出身だったので興味があり、留学先で毎週日曜日プロテスタント系の教会に通っていた。礼拝の世話をしていた夫婦から、クリスマスを我が家で過ごさないかとお誘いを受けたのだ。イギリス家庭でのクリスマス体験!乗らない手はない!
迎えたクリスマスイヴ当日。いつも礼拝で会う夫婦やその子どもたちだけでなく、親戚一同が家に集まっていた。初めて会ったおばあちゃんが、ハグとキスで迎えてくれた。
15時には、家族全員でBBC(イギリスの公共放送局)が放送する女王のスピーチを聞いた。女王が国民の1年の頑張りを労い、良い年を迎えることを祈るものだ。
そのあとは、夫婦とクリスマス料理を作った。詰め物入りの七面鳥の丸焼き、芽キャベツやポテト、クリスマスプディング……。ハリー・ポッターに出てくるクリスマス料理がまさに目の前に!
料理が出来上がったらお揃いの紙製パーティー帽子をかぶり、クラッカーを手に家族でテーブルを囲む。食事のあとはゲームをした。子どもたちがツリーの下のプレゼントを開けるのを眺め、なんと私までプレゼントをもらった。
イギリスでのクリスマスは、私を「優劣」の呪縛から解放してくれた
その日は、1日を振り返り、満ち足りた気持ちで眠った。異教徒、異国人である私も家族同然に迎え入れられ、家族の愛に包まれたただひたすら優しくて暖かいクリスマスだった。
そして自分が恥ずかしくなった。
私が夫婦からクリスマスを一緒に過ごすお誘いを受けたのは、「イギリス一般家庭でのクリスマス体験」がしたかったからだ。
恋人やサークル仲間とクリスマスを過ごす日本の友達や、日本人同士でドイツのクリスマスマーケットを楽しむ留学生仲間より、留学先でネイティブと過ごし、伝統的なイギリスのクリスマスを体験した私のほうが上!という優越感に浸りたかったからだ。
なんとつまらないものにこだわっていたことか。
クリスマスを恋人と過ごすのはステータス(友達と過ごすのもまあ良い)――。イギリスでのクリスマスは私をそんな呪縛から解放してくれた。留学した年は雪が降らずホワイトクリスマスとはならなかったが、聖夜に降る雪のように真っ白な気持ちになったような気がした。
人と比べるのはやめた。ナンセンス。クリスマスの過ごし方に優劣はない。それぞれが思い思いに過ごせばいいんだ。