今、あなたの娘はとある田舎に住んでいます。塾の先生の仕事をしています。ここには、素敵な大人の方がたくさんいて、かわいい後輩や仲間がいます。
そっちよりは少し海風が強いけど、晴れの日が多く暖かいです。瀬戸内のにおいや風景はどこか懐かしいです。

「建築家になる」と夢を言い訳に地元を出て、5年が経ちます。
あなたたち二人を含めた周りの大人が全員、敵にみえて、友達ができないのも窮屈な田舎のせいにして、あの頃は日常から抜け出すことが精一杯でした。
結局、私の学力じゃ遠くには行けなかったけど、世界を旅したり、たくさんの人に出会い、自分の居心地のいい場所を探し続けました。
そして、たどりついた場所が今住んでいるこの町です。

引っ越し前に「なんで地元じゃダメなの?」の強く聞かれたのをたまに思い出します。
今の私が戻っても、また嫌いになって逃げる。もっと地元を嫌いになってしまうのではないかと。まだ怖がっている私がいました。

地元によく似たこの町で、ようやくあの頃の私と向き合えています。
夢は少しずつ変化しているけれど、自分に正直に生きています。
新しい自分にも出会えています。
今の私は、ここが好きです。
ごめんなさい。もう、しばらく帰れません。