サンタがいるのかいないのか、なんて論争は、無粋だと思う。
サンタの正体が親だと明かされても、私はショックを受けなかった。だって、サンタは赤い服を着て白い髭を生やしたおじいさんだけではないと思うから。

人生でたった一度だけ、海外でクリスマスを過ごした。マイルが貯まっていたのか、親の勤続何周年記念だったのかよく分からないが、ともかく海外で過ごした。
私・家族・母方の祖父母・母の妹と行った海外旅行だった。その年か1年前の春にも同じ国を旅行していたが、海外旅行としてはこれが2回目だった気がする。
当時小学生の私は、飛行機に乗れるだけでもとても楽しみだったし、日本と似ているようで違うオリエンタルな雰囲気をまとう街にまた行けることが、とても楽しみだった。

機内でもらった思いがけないプレゼント

離陸してシートベルトサインが消えた。そうしたら搭載されているビデオで映画を見たり、ゲームをしたり、好きにできる。正直、この時の記憶は全くないのだが、たぶん遊び尽くしたのだろう。
どれくらい時間が経ったのか覚えていない。たまたま席を外していた祖父が声を掛けてきた。
「窓側の席空いているから、そっちに移動して景色を見よう」
実は、親が予約した席は通路の中央3列がけのシートだったため、窓からの景色が見えなかった。窓から眺める景色は、車だろうと電車だろうと飛行機だろうと年齢関係なくワクワクするものだ。私は祖父の誘いに乗り、席を移動した。

きちんとシートベルトをして、窓から見えるフワフワした雲に感激していた時だったか。私と祖父を見かけたキャビンアテンダントが、ケーキを1つ渡してくれた。
エコノミークラスで食べられるようなものではなくて、ガラスのお皿にチョコケーキが置いて粉糖のデコレーションがされている、文字通り「リッチ」なケーキ。

ケーキをくれたキャビンアテンダントは、さながらサンタのよう

今思えば様々な偶然が重なって食べることができたケーキだが、クリスマスシーズンということもあり、キャビンアテンダントはさながらサンタのようだった。
旅行が始まる高揚した気分を更に幸せにしてくれたケーキは、現地で食べた有名なショコラトリーのケーキよりも美味しかった。
あっちで見た夜景も、イングリッシュブレックファーストやエッグタルトの味も、ホテルで見たテレビ番組の内容も何もかも思い出せるけど、一番色濃く思い出せるのはあのチョコケーキだ。

このケーキは色々あって私一人で食べてしまい、到着後に姉と妹に問い詰められてしまい、食べ物の恨みを小学生ながら身を以て思い知るのはまた別の話だが、その経験も含めあんなに色濃いクリスマスはあのときだけだと思う。
クスッと笑えてしまう少し拙い日本語、欧米のようでもありアジアでもあるようなオリエンタルな雰囲気、普段耳にする言葉とは別の言語が行き交う町中、私だけ食べたチョコケーキ。物心ついてから日本しか知らなかった私の世界をこじ開けてくれた街に、私は惚れたんだろう。
「どうして海外に行きたいの?」
将来を思い描く度に浮かぶ質問の答えは、クリスマスの思い出にあるとも言える気がする。

私にとってのサンタはあのキャビンアテンダント

私にとってサンタは、赤い服を着て白い髭を生やした老紳士だけを指さない。
あの時ケーキをくれたキャビンアテンダントのように誰かを幸せにさせたり、何か特別な経験を与えてくれたりする人がサンタなのだろう。だから、サンタが両親だと明かされても動揺しなかった。

残念ながら、あの時と同じクリスマスはもう過ごせない。祖父母も家族も健在だが、あの街を取り巻く環境が変わり、私が惚れた街の雰囲気は消えかかっているからだ。
私はサンタがくれたケーキの思い出と、海外への憧れというもう1つのプレゼントを胸に、また頑張るのだ。