私にはやりたいことがなかった。
高校2年生になると、来年は受験だとか進路を決めないといけないとか、周りの空気がだんだん変わってきて、自分も何となく考え始めたりする。
「将来の夢は何ですか」。この質問が、私は一番苦手だった。

幼稚園の時も小学校の時もその後もずっと。なんで皆そんなに迷いもなく〇〇になりたい!って言えるものがあるのか、不思議でしょうがなかった。
幼稚園の時のアルバムには、年少の時はお花屋さん、年長の時はケーキ屋さんって書いたけど、それほどなりたいとは思っていなかった気がする。
女の子って皆きっとこういうものが好きなんだとか、こう書いたらお母さんが喜ぶかなとか、そんな気持ちで書いたんじゃないだろうか。
小中学校の時は学校の先生。理由は、何となくクラスでの自分の立ち位置的に当たり障りがなく、意外性をできるだけ持たせないようにと考えた結果だった。

大学選びが進まない中で見つけたやりたいことは「一人暮らし」

高校受験より大学受験は自分の将来に直結している気がして、やりたいことがなかった私は大学を選ぶ決め手が分からなかった。
ただ、いろんな大学を調べているうちに、一つだけ思ったことがあった。「一人暮らしがしたい」と。

別に家族といることが嫌な訳ではなかったけど、自分が生きている行動範囲を越えて違う場所に行ってみたかった。誰も自分のことを知らない場所で暮らしてみたかった。
私の中に一人暮らしへの不安は全くなくて、知らない場所への憧れの気持ちから、地元から離れた他県(地元より断然都会と言われている場所)の大学に進学した。

一人暮らしをいざ始めるとなると、柄にもなく寂しくなったりするのかと考えたけど、全くそんなことはなかった。引越しは家族が手伝ってくれて数時間かけて車で荷物を運び、引越し先のホームセンターで必要なものを一式そろえたりと、引越しあるあるをしながらも別れの時は一瞬だった。
「じゃあ頑張ってね~」「は~い」といった感じで、一応玄関まで見送るか、と思ったくらいあっさりだった。

私の小さなやりたかったことが、今の自分に繋がっている

それからの一人暮らしは大学に行って、毎日今日のご飯を考え、スーパーで買い物をし、洗濯をし、ごく普通の一人暮らし生活だった。でもそれが、私はすごく楽しかった。
自分一人でなんでもやらなきゃいけない、なんでもやっていいことがとても心地よくて、夕飯の献立を考えながらスーパーで買い物をしている時なんか、自分が大人になれた気分だった。ちゃんと暮らしている実感が持てた。

将来やりたいことが見つからない、そんな理由から始まった一人暮らしだったけれど、私は一人暮らしをして良かったと思っている。
将来の夢なんて簡単には見つからないし、考えれば何かにたどり着ける訳でもなかった。正直今でも自分のやりたいことは、はっきりは分からない。
でも、一人暮らしがしたいと思ったから私は地元を離れようと決めることができて、新しい場所には大切な人たちができて、今では仕事もしている。私の小さなやりたかったことが今の自分に繋がっている。
夢がある人には憧れるけど、大きい夢じゃなくても、自分の中に湧き出てくる小さなやりたいを見逃さないようにしていけば、それもまたいつかの何かに繋がるのかもしれない。
そう思いながら、1年前に買ったウクレレを、このあたりでちゃんと練習してみようか、なんて考えている。