上京して来てこの秋で4年が経った。
少しずつ肌寒くなり、街がクリスマスムードになって浮かれるこの時期に毎年必ず思い出す料理がある。「卵かけご飯」だ。

大好きな卵かけご飯に溢れた涙。今の自分が情けなくて悔しかった

あれは、東京に来て最初のクリスマスだった。
当時の私は、上京を機に今までの接客業から憧れのオフィスワークに転職したものの、入社してすぐに取引先に出向となり、携帯ショップの販売員として働いていた。

まだ派遣されて2ヶ月程だった私は、複雑なプランや端末操作の仕方などを覚えきれておらず、お客さんをイライラさせてしまうことも多かった。
その日も、私の説明不足のせいで、お客さんとの意思疎通が上手く出来ず通常の倍近くの時間がかかってしまった。

落ち込みながら帰っていると、コンビニの前でサンタ帽をかぶった店員さんがケーキやチキンを売っていた。

「そういえば今日はクリスマスか」

そう思ったが、とてもクリスマスをお祝いする気分にはなれなかった。
まっすぐ家に帰ったものの、ご飯を作る気力もなく、冷蔵庫にあった玉子と冷凍ご飯で、卵かけご飯を作った。

帰る時間が遅い上、お惣菜を買うお金がなかった私にとって、卵かけご飯は疲れ切った日の鉄板メニューだった。

食べているうちに、なんだか虚しくなり涙が溢れてきた。

別にチキンやケーキが食べたかったわけではない。卵かけご飯だって、普段は大好きなはずだ。それなのに、「クリスマスなのにチキンも食べられずに、一人で卵かけご飯を食べている女」そんな自分の状況がなんだか情けなくて、悔しくて涙が止まらなくなった。

何年後かに「あの時」を笑って思い出話にしたいと頑張ってみたけど…

泣きながら、上京を決心した日のことを思い出した。

ちょうど1年前、私は一人で東京に来ていた。
特に用事があったわけではないが、とにかく冬の東京の街を歩いてみたかった。
いつかドラマで見たような煌びやかなイルミネーション。たくさんのビルの夜景。

自分と同じ社会人のはずなのに、この街で働いている人たちがなんだかとても輝いて見えて、街も人もキラキラ眩しかったのを覚えている。

「私もこの街で働いてみたい。ここで生きてみたい」

そう思った。
地元に帰ってからも、その思いは変わらず、
「来年の冬は絶対に東京に住む!」
そう決心してお金を貯め、1年かけて上京の準備を進めた。

それなのに、憧れて入った会社では働けず、言われるがままに出向。
毎日涙を流しながら、タバコの匂いと酔っ払いを避けながら帰る日々。
出向期間は1年間。1年耐え抜けば私もあの会社で働ける。

その一心で歯を食いしばった。
今日の悔しさもこの卵かけご飯の味も、絶対に忘れない。
何年後かに、「あの時は卵かけご飯を食べながら泣いたなぁ」と笑って思い出話に出来るように頑張ろうと決心した。

結局約束の出向期間を半年以上超えても本社には戻れず、いつの間にかあっけなく倒産した。
この経験が、会社に骨を埋める覚悟で働き、自分の人生を仕事に捧げたいと思っていた私の考えを180度変えた。

保証がない人生だから、やりたいことを大切に。今も東京に住む私

今は、正社員だからといって死ぬまで同じ会社で働ける時代ではない。
嫌なことも耐え抜けば報われる保証もない。
だったらもっと自分の人生を大切にしようと思った。
やりたいことはやって、会いたい人には会いに行こうと思った。

私は今、派遣社員として働いている。
落ち込む日もあるけれど、毎日泣き崩れるようなことはない。

満足のいく人生ではないが、まぁまぁ幸せだ。

インスタで見るような、高級なディナーは食べられないけど、その10分の1の価格で美味しいご飯を食べさせてくれる素敵なお店を知っている。

見た目は微妙だが、味は美味しいちょっと豪華なご飯を自分で作れるようになった。

何よりも、私は今でも大好きでたまらない 東京に住んでいる。
大好きなあの景色をいつだって見に行ける。
そろそろ街が煌めく季節だ。
しばらくコロナで行けていなかったが、今年はまた東京の街を歩いてみよう。

そして今年のクリスマスは、
「あの時は卵かけご飯を食べながら泣いたなぁ」
と笑いながら、ケーキくらいは食べようか。