盛大にやらかした旅の思い出がある。
彼氏と付き合い初めて2年ほどたった頃だっただろうか、いつもであれば実家に帰る年末から年始にかけて、タイのリゾートへ旅行しようという話がでた。
大好きな人と、素敵な場所で迎える新年はさぞ素晴らしいだろうとワクワクし、正月は家族と過ごすものだとごもっともなことを言う親に一言謝り、すぐに飛行機をとった。

12月末にタイへ入国。楽しかった「12月31日」までの時間

念入りに計画を立てて贅沢するより、気の向くままに現地の雰囲気を楽しみたい派の私たちだったが、繁忙期だからさすがに宿泊場所は予約しておこうと一泊2000円程度のゲストハウスのみ押さえ、12月末にタイへ入国した。

12月31日まではとても楽しかった。
気温も天気も最高。海はほぼ透明で、船が宙に浮いているように見えるほど。ごはんもおいしく、少し裏路地に入ったところにある屋台で雰囲気を楽しんだ。周りの人たちも年末年始を楽しむ人たちで溢れ、こたつに入ってゆっくりと過ごすいつもの年末とは全く異なり、なんとも陽気だった。

12月31日夜、深夜0時になると花火が上がるらしいとの話を聞き、飲み歩きながら0時まで起きていようと話をしていた。
そんなときに出会ったのがバケツ酒。子どもが砂場で遊ぶときに使うような小ぶりの、いわゆるバケツに入ったお酒なのだが、商品札に書かれている「バケツ」がまさか酒入りだとは知らず、面白がって頼んでみるとトンデモナイ量の酒が出てきた。
それまでにも既に何件か飲み歩き、かなり酔っているところにバケツ酒に出会ってしまった。出会ったからにはできるだけ飲んだものの、限界を感じて23時55分まで一旦寝ようという話になった。

23時55分。シャワーから出てきた彼は、真っ青な顔をしていて…

そして運命の23時55分である。
私の携帯のアラームが鳴り、目を覚ますと隣に彼氏がいない。シャワーの音。出てきた真っ青でふらふらな彼。酔いがひどいのかと思っていると、彼曰く、盛大な下痢と嘔吐が止まらないとのこと。

因みにこのゲストハウスのシャワー、東南アジアの安い宿ではよくあることだが、お湯が出ない。出るもの出して寒さで震えている(外は暑い)彼には鬼畜である。
そういえば私も気分が悪い気がする。酔いなのかなにかに当たったのかは分からない。ただ明らかに彼よりはましなので、水を入手しに外に出ると、部屋の暗い雰囲気とは正反対にクラッカーの音と残骸がそこかしこに散らかっているではないか。ああHappy New Year。

何とか生き延びて朝が来た。予想通り私にも彼同様の症状が。
あれだ、あの裏路地で食べたやつ。あれが原因だ。実は私、3か月間タイに滞在したことがあるのだが、その時には体調を崩すことはなかったのだ。だから油断していたのかもしれない。過剰量のアルコールが胃腸を荒らし、そこに何かしらの病原体が追い打ちをかけたのかもしれない。

しかしそんなことはどうでもよい。とりあえずその日は別のホテルに移動しなければならない日であったため、まともにまっすぐ歩けず、100歩進めば胃腸が悲鳴を上げる状況を何とか乗り越えなければならない。ただここは海外。トイレは有料か、店を使用している人のみしか入らせてくれない。なんという所業。

私たちの絆をより一層強くしたのは正月旅行での「生き延びる」経験

とまあ、家族との正月を蹴って彼氏彼女でのリゾートを選択した私たちへ与えられた試練を、まさに死に物狂いで共に生き延び、またお洒落などに気をつける余裕などゼロの姿をさらした私たちは、より一層絆を強くしたのだった。
ちなみに、何を口にしても次の瞬間に体外に排泄される(そもそも食べる気がゼロ)状況でも食べられたマンゴスチンのあのおいしさは一生忘れることはないだろう。

旅に試練はつきものだと思う。ただそれでも、日常とは全く異なる空気、におい、色合い、人々に触れることは、陳腐な表現ではあるが、私たちの視野を広げ、一回りも二回りも成長できるという点でメリットの方が各段に大きい。
いつもとは違う新しい自分を見つけ、受け入れる。自分とは違う文化に触れ、受け入れる。まだまだ私の世界は広げられる。