最後の一秒まで堪能したくて、ボストンひとり旅に挑戦

旅行はたいてい誰でも行くものだと思うけれど、私は特に旅行が好きなようだ。コロナ禍で久しく海外には行けていないけれど、時期を見て国内のひとり旅をしている。
これは私が忘れもしない、初めての海外ひとり旅の話。

私がずっと行きたかった憧れの街、それはアメリカのボストンだった。
ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学がある学術都市のイメージが強いが、私が憧れた理由は大好きな海外ドラマの舞台となっていたからだ。

社会人1年目の冬にとれた長期休暇で、遂にボストン旅行を思い立った。ひとり旅は国内でもしたことがなかったが、友達を気にせず自分の行きたいところを巡って最後の一秒までボストンを堪能したいという思いから挑戦した。大学卒業以来使っていなかった英語が現地でどこまで通用するか、試したい気持ちもあった。

経由地で足止めを食らうとは。空港でひもじい思いをして一泊

成田空港でチェックインし、飛行機に乗り込む。長時間のフライトののち、経由地のシカゴに到着する。
ここで一度預けていた荷物を受け取り、次の飛行機に向かわなければならない。この乗り継ぎが一番心配していたポイントだった。

スーツケースを無事に受け取ることができ、さあ次の飛行機に乗ろうと荷物検査のゲートをくぐった瞬間、受付の女性が首を振って、「あなたの乗る飛行機はないよ」と言った。訛りの強い英語だったので何度か聞き返してしまったが、“Because of the storm”という言葉で理解した。嵐で欠航となってしまったのだ。

頭が真っ白な状態でロビーに戻りスマホを見ると、ニュースでアメリカ東海岸が約20年ぶりの大豪雪だと報じられていた。後から知ったが、この日は全米で5000便が欠航になったらしい。滞在中に少し雪が降るかもしれないという予報は見ていたが、経由地で足止めを食らうとは思いもしなかった。

翌朝の天候次第では飛行機が飛ぶかもしれないと言われたので、祈りながら朝まで待った。当時はあまりお金がなかったので、ホテルに泊まらず空港でひもじい思いをしながら1泊した。
結局吹雪が止むことはなく、諦めてシカゴ観光に切り替えた。憧れのボストンをひと目見ることすら叶わず、悔しくて一人ひっそりと泣いた。困っているのは他の乗客も同じだからと自分を落ち着かせようとしたけれど、長年憧れたボストンに向かう初めてのひとり旅だったのになぜ、と胸が苦しくてしかたなかった。

自分の心の声に忠実に、気ままに街を歩ける。それがひとり旅の醍醐味

シカゴの観光地は一つも知らなかった。せっかくのひとり旅なのだから楽しもうと立ち上がり、地図を手に入れ、ノープランの旅を始めた。
もともと思い入れのない見知らぬ土地。いつもの海外旅行なら早起きして夜遅くまでせわしなく動きまわるところだけれど、見たい場所が特に決まっていないとのんびり過ごすことができた。せっかく外国を旅しているのに朝11時までホテルで寝るという、贅沢な時間を過ごせた。

シカゴの街は観光地というよりビジネス街という印象で、期待値も高くなかった分、街でたまたま出会ったカフェや美術館ひとつひとつへの感動が大きかった。
なにより、自分がシカゴの住人の1人になったつもりでビル群の間を闊歩するという、旅行らしくない旅行がとても面白かった。
今までの海外旅行は「せっかく来たのだから」という思いに駆られて肩に力が入りすぎていたんだな、と気づいた。

当初の予定とは全く異なる旅行になったけれど、自分ひとりで英語を使ってトラブルに対処し、見知らぬ土地を歩き回り、無事に日本に帰ってこられたことは大きな自信となった。
その後も懲りずに海外旅行をして、機材が間に合わない・パイロットがいない(!)など様々な飛行機トラブルに遭ったが、この経験のおかげで平常心を保てた。ボストン旅行も2年後にリベンジすることができた。

この旅行のおかげで、初めて時間の制約からも周囲のしがらみからも離れた自由な時間を味わうことができた。観光プランを消化することに夢中でひとつひとつを十分に味わえなかったり、同行してくれる友達が楽しめるような行き先を選んだりするのではなく、自分の心の声に忠実に従い気ままに街を歩けるのが、ひとり旅の醍醐味だと思う。