学生の頃、女友達数名で海外旅行に行ったことがある。5泊6日くらいの旅で、行き先はフィンランドとオランダだった。
ほぼ一年近く計画を練って、宿泊先や旅のルートを調べて、修学旅行のしおりのような詳しい行程表も作った。できるだけ安く、でも安心安全な手段であることを確認しながら、飛行機を選び、移動手段の地下鉄を探して、それを行程表に書き込んでいった。
海外旅行に行くのは初めてで、そのためにバイトをしてお金も貯めた。何よりとても楽しみだった。

旅先の全てが新鮮で疲れていても楽しく、まさに夢のような毎日

片道8時間かけて生まれて初めてやってきた海外は、フィンランドの首都ヘルシンキだった。空港に着いた時間は現地時間の夕方で、夕日に照らされた近代的な空港がとても印象的だった。
そこからホテルまでの直通バスに乗り、空港の近くの大きくてシックなホテルに着いた。ひどい時差ぼけだったし、とても疲れていたけれど、次の日からの予定が楽しみでたまらなかった。
それからの毎日はまさに夢のような日々だった。
オールドマーケットホールに現代美術館キアズマ、ヘルシンキ大聖堂などいろんなところに行ったけど、街並みも歩行者も街の空気も何もかもが日本では見たことがなかったものばかりで、どんなに歩いても、疲れていても楽しくてしょうがなかった。
ヘルシンキを堪能した後は、オランダのアムステルダムに向かった。
ヘルシンキは日本の京都のように歴史的建造物が残された洗練された街なのに対して、アムステルダムは新宿や渋谷のように、トラディショナルとモダン、雑多と斉一の対局な空間が共存する不思議な街で、そこにいる人たちもすごく多種多様だった。
2月の寒い時期に旅行に来たのに、寒さが心地良かった。

旅行中に出会った、数々の忘れられない食べたものたち

この旅行中に人生初の機内食を食べた。行きの飛行機の晩御飯のデザートがスーパーカップのバニラアイスだったことを妙に覚えている。
それから、ヘルシンキの思い出の味は、現代美術館キアズマのカフェで食べたバターがたっぷり染み込んだバゲットのガーリックトーストと海老の旨味が効いたキノコのポタージュ、オールドマーケットホールのカフェで食べた、ぷりぷりの小海老がこれでもかというほど入ったタルタルソースとグリーンリーフが入ったサンドイッチ(全粒粉のパンで挟んでいた)と、そのカフェのブラックコーヒー、かもめ食堂のカフェで食べたもっちりした食感に甘さ控えめでシナモンの香しいシナモンロールとブラックコーヒー。
そして、旅の予定を確認するために入ったバーガーキングで飲んだ、メロンソーダの蛍光グリーンとその甘さも忘れられない。
オランダでの思い出の味は、青空や風車が水路に映ったザーンセ・スカンスで食べた屋台の濃厚なトマトスープとふわふわ生地のピザパン、ホテルの近くで食べたイタリアンレストランのフィットチーネのクリームパスタとマルゲリータ。
他にも、ホテルから少し離れたところにあった日本食レストランで食べたおでん定食。
毎日、たくさんのものを見て、歩いて、話して、ご飯を食べた。道に迷っても、目的地にたどり着けなくても、ご飯を食べて歩いていればなんとかなると思えた。明日はもっといいことがあると思えたし、この瞬間が何よりの宝だと思った。

旅の締めくくりはうどん屋さんで。優しい味が身体に沁みる

最終日、オランダを朝早く出て、飛行機を乗り継ぎ、日本に帰って来たとき、日本も朝だった。
羽田空港に着いたのは覚えているのに、そこから最寄駅までどうやって行ったのかは覚えていない。気がつくと、お昼はとうに過ぎていて、いつもの最寄駅に着いていた。
私と女友達はなんだかお腹が空いたから食べて帰ろうという話になり、うどん屋さんに入った。選ぶこともめんどくさかったしお金もなかったから、パッと目についたぶっかけうどんを頼んだ。天ぷらも何も追加せず、レジの横にあった輪切りの長ネギとおろし生姜をのせて、席に持って来た。
ぶっかけのつゆを熱々の湯気が立ち上るうどんに絡めて口に入れた。コシのある太麺の歯応えがなんとも言えず、鰹出汁の効いた醤油ベースのつゆがうどんと実によく合った。
次に長ネギとつゆを、うどんに絡めて一緒に食べる。ネギの香りと風味がうどんとつゆに合わさり、絶妙な組合せになった。美味しい、すごく美味しい。このうどんがこんなに美味しいなんて……。眠気と疲れがピークの身体に優しいうどんがじんわりと沁みてきた。
毎日が夢のような旅行の最後を締めくくったのは、どこにでもあるうどん屋さんのたった一杯のうどんだった。

どこへ行っても、やっぱり私はぶっかけうどんを食べて旅を終わりたい

あの旅行の後、私は旅先で出会った人や、見て触れて感じたこと、話した出来事、食べたものを時々思い出す。そして、あんなにたくさん食べた中で思い出すのは、やはりあのぶっかけうどんなのだ。
コロナが落ち着いたら、また別の場所へ行こうと思っている。そして帰って来たら、またぶっかけうどんを食べようと思う。どこへ行っても、何をしても、何を見ても、やっぱり私はぶっかけうどんを食べて旅を終わりたい。優しくて素朴で五臓六腑に染み渡ったあのうどんが、私の旅には欠かせないから。