大親友のKがニューヨークに移住してしまった。ニューヨーク、いいな。かっこいい。憧れである。

「おひとりさま〇〇」が苦手な私は、それを克服する機会をうかがっていた。「おひとりさま海外旅行」はハードルが高すぎるが、この場合、現地に着きさえすればKに会える。「おひとりさまフライト」は絶好の苦手克服になるのではないだろうか。
思い付きだけは一丁前の私は、早速Kに連絡を入れた。

初の「おひとりさま海外フライト」は焦燥感に襲われた

英語力は初心者程度。ひとりで国際線に乗ったことはもちろん、乗り継ぎの経験もなかった。
しかし、航空券の費用を抑えるには、フランクフルト国際空港で乗り継ぐ必要があった。不安でしかない。これほど真剣に「どこでもドア」を切望する日が来るなんて。

フランクフルトまでの飛行機は日本の航空会社だったので、特に不自由はなかった。問題はそこからである。フランクフルト国際空港には現地時間の午前5時に到着した。
ドイツはハーブのような香りがした。なぜ日本は醤油なのだろうか。ちょっと悔しかった。
搭乗時間になり、搭乗口の列に並ぶ。スタッフに日本人はいない。自分の順番が来た。チケットとパスポートと、PCR検査の陰性証明書を見せる。
しかし、「検査方法が載っていない」みたいなことを言われ、やれやれといった顔でたらい回しにされた。載ってるのに……。

しかし、何と言えばいいのかわからない。苦笑いしかできなかった。焦燥感に襲われる。他の乗客達はぞくぞくと搭乗口に吸い込まれていく。私だけぐるぐる回される。このまま一生飛行機に乗せてもらえなかったらどうしよう。
中学の頃、英語の先生が「海外で困ったら、最悪大阪弁で怒鳴り散らせば何とかなる」と持論を述べていたことをふと思い出した。しかしそれができる人は、そもそも困らないのではないだろうか。
体感で100回転したあと(実際は3回程だったと思う)、やっと搭乗を許された。小走りで乗り込んだ。

機内食の選択肢はないし迷惑な客いるし、私のハートは粉々になった

離陸までの機内では、他の乗客が知り合いを見つけるたびに「フゥ~!」と盛り上がっているのを、死んだ目で見つめた。ベルト着用サインが消えると同時に、前の席のユダヤ人がフルで座席を倒した。隣の席の男は、じきにマスクを取っ払い、CAに何度も注意されていた。

ドリンクサービスで「ブラックコーヒー下さい」と頼むと、「からの?」とドイツ訛りの英語で聞かれた。「じゃあジュースも」「からの?」なんやねん、ええよもう……。
機内食は、問答無用でベジタリアンなんちゃらを渡された。肉か魚が食べたかった。私のガラスのハートは粉々になっていた。
しかし、あと10時間大人しくしていれば、目的地だと思うと安心した。さらに機内食にあったザッハトルテで、だいぶご機嫌になった。
ドイツ最高!今度行こ!
つくづく自分の単細胞っぷりを実感した。

「おひとりさまフライト」の後、私は飛行機が大好きになっていた

機体が大きく揺れ、私はついにニューヨークに辿り着いた。入国審査で不安になるほど質問され、自分の荷物を取り、逸る気持ちで到着ゲートを出る。
懐かしい顔の日本人が私を見つけて、笑わせようとコミカルな動きをして関西弁を発しながら駆け寄ってくる。後光がさしているように見えた。
たった31時間が、数日間のように感じた。「おひとりさまフライト」、無事成功である。

帰国の際、面白い心の変化に気が付いた。飛行機が大好きになっていたのだ。機内食もわくわくするし、ひとりの時間を満喫できるし、デジタルデトックスもできる。
不安な気持ちにもなったが、英語の勉強をすれば解決する。何より、話のネタになった。憧れのニューヨークもかなり楽しかった。

周囲からするとちっぽけな事でも、私にとっては大きな挑戦だった。今なら「おひとりさま海外旅行」への挑戦意欲もある。
旅は成長への挑戦ツールだ。次の旅を終える頃、私はどうなっているのだろうか。