『夏目わか』
その名前は、事務所の人がつけてくれた芸名だった。

私は大学卒業後、仕事でパワハラやセクハラなどを受け、身体を崩し一年で退職した。新たな道へ進もうといろんなことに挑戦した。その挑戦の一つが地下アイドルだった。
履歴書を送り、面接をし、採用してもらい研究生として活動することになった。

その時もらった名前が夏目わかだった。
自分の本名以外で、名前をつけてもらったのは、あの時が初めてだった。

ファンの人だかりができるイベント会場で、夏目わかの列だけが0人

夏に研究生としてデビューし、仕事と地下アイドルとバイトの掛け持ちで生活するようになった。多忙な日々の中、なんとかダンスや歌を覚えようと移動時間に動画を見たり、寝る前にダンスの勉強をしたりなんとかメンバーの足を引っ張らないようにと努力した。
しかし、高校生や大学生のメンバーの中に1人、社会人の私。見た目も若くなければ、覚えも悪い。みんながどんどん先のことをやっていくのに、私だけが序盤で詰まる。体も硬く、しなやかな動きができない。

そんな中、ステージで何度かパフォーマンスをするようになった。
でも、上手くなることはない。マシになった程度の出来だった。
パフォーマンス後は握手会やチェキでの撮影会等で、ファンの方との交流の時間があった。メンバーの周りにはたくさんのファンの列。プレゼント渡すファンの人だかり。

しかし、夏目わかの列には、誰も並ばなかった。

同期で入った若くてピンクの髪の女の子は、ファンが複数いた。リピートして並ぶ人も何人もいた。
夏目わかだけが0人。ただただ舞台に立ち、ニコニコと笑って手を振っているが、内心傷ついていた。

夏目わかは、脚光を浴びない。日陰にいるまま消え去っていった

夏目わかは、脚光を浴びない。

歌も下手。ダンスも下手。背が高い分変な目立ち方をしないように後ろへ後ろへと追いやられていく。
研究生のため、出番も少ない。その少ない出番でも端のさらに隅。
ただただ惨めなポジションだった。「背が高いのっていいよねぇ」「目立つからうらやましいー」。歳下のメンバーからは、半ばからかわれているような声をかけられる。もちろん、出来の悪い私に丁寧にダンスを教えてくれるメンバーもいた。でも、アイドルはアイドル。自分が輝くことを1番としていた。

私だけが落ちこぼれ。

同期の子は売れた。アイドルらしい可愛さを持ち合わせていた。図々しさやあざとさも含め、彼女はキャラがはっきりしていた。アイドルらしかった。私とは全然違う。アイドルを辞めた今でも被写体として脚光を浴びている。Twitterのフォロワーも何百人。
それに比べて私は研究生止まりでやめてしまった。そして、Twitterのアカウントも削除。ファンができることなく夏目わかは終わってしまった。

人と比べるものではないと頭ではわかっている。
でも、どうしても心のどこかで感じてしまう。

夏目わかはファン0人の落ちこぼれ。夏目わかは失敗作。夏目わかは日陰にいるまま消え去っていった。

エッセイ採用で見えた希望の光。私が私の力で、輝いた世界を見せたい

私はそんな夏目わかを変えようと思った。
苦手だった文章を書くことで、夏目わかを落ちこぼれから救い出そうと思った。
そして、ちょうど1年前初めて夏目わかとしてかがみよかがみにエッセイを投稿した。
「ふつうを超えていけ!」のエッセイ。
そう、私は超えたかったのだ。ふつうという枠組みから。
夏目わかとしての落ちこぼれた人生から。

エッセイを採用してもらった時、一筋の希望の光がさした。
夏目わかは落ちこぼれじゃないかもしれない。
夏目わかを落ちこぼれで終わらせたくない。
ファン0人の夏目わかに光を浴びせたい。

私が私の力で、夏目わかに輝いた世界を見せたい。まだ、良い結果は残せていない。でも、私はこの1年、エッセイを書き続けた。採用されてもされなくても書いて書いて書き続けた。書いたエッセイは40を超えた。

あの時、夏目わかのファンにならなかったことを後悔させるくらいに、夏目わかを輝かせたい。
夏目わかはこれから再出発する。
夏目わかはここにいる!
夏目わかここにあり!

私は今年、
「夏目わかを輝いた世界へ導く!」
そう宣言する。