私が新卒で入社した会社では「年功序列」と「男尊女卑」が目立つ。特に、私が入社したての頃は中途入社組のみ。女性の平均年齢は40代半ばであった。
上の世代の人の考え方や行動に、後から入ってきた者は従うこととなる。

役員に要望を出す女性社員と、陰口を叩く古参の女性社員

入社して数週間後、先輩の女性社員から「女性社員は、週毎に交代で、役員の部屋の掃除をしているのよ」と教えられた。続けて「順番は入社順だから、来週はあなたが当番よ。宜しくね」とも伝えられた。
伝統的に行われていることだから、やって当たり前、と言わんばかりの口調に驚いた。女性だけが、しかも正社員のみが行う役割なんて、この時代にそぐわないのではないか。

掃除当番の日は、いつもより20分程度早く出勤して、掃除は始業時間前に行う。
勤務先では、社員が役員に対して、会社への要望を伝えて良い「ご飯会」がある。その際、女性の正社員の方が「掃除当番の日は、早く会社に来ているが、私達と同じ位に出勤がとても早い役員がいる。彼の仕事中に室内の掃除をして、仕事の邪魔をするのも悪いので、もう少し遅めに出勤してもらえるよう、頼んで頂けないか」と要望を出した。
それを受けて「私からその役員に、遅めに朝出勤してくれないか、とは言えない。その代わり、掃除当番で早出の時は、お金を支給しても良い」と返答があった。彼女の心境は「お金が貰えるなら、今後も掃除をしてもいいかな」だった。
だが、彼女の先走った行動に「よくそんな要望を役員に話せるよね。お金が欲しくて掃除をしている訳ではないし、お金を貰うにふさわしい位に、完璧な掃除をしなくてはいけない。プレッシャーだよ」と陰口を叩く古参の女性社員がいた。

反感を買うリスクを負った上での勇気ある女性の信念に、尊敬の念

この場合、どちらの立場の女性社員が「わきまえない女」なのだろう。
陰口を叩いた社員は、役員に相談した女性を「わきまえていない」と思っている。だが、私のように声を上げることができない、下の立場の人間からすれば「よくぞ、言ってくれた!私の本音を代弁してくれてありがとうございます」と感謝と頼もしさでいっぱいだ。
結局、お金が支払われることはなかった。だが、陰口を叩いた社員達は「今までのやり方を変えることを嫌い、慣れを好む」傾向のため、反感を買うかもしれないリスクを負った上での、勇気ある女性の信念に、尊敬の念を抱いた。

数ヶ月後、その勇気ある社員は、総務課に掃除の件を話し、新たに男性社員を加えての当番制となった。対象の社員数が増えたため、当番が回ってくるのが遅くなった。私は、自分の担当する日数が減ったことで「当番の日は隅々まで掃除しよう」という気持ちが一層強くなった。

第三者からみると、どの立場の女性が「わきまえない女」だろうか

だが、前述の陰口を叩いた人が、またコソコソ言い始めた。「女性がすれば良いことなのに。なんで男性までしなきゃいけないの」「部長職にまで掃除をさせる気なのか」と怒っていたのだ。
「女性はこうあるべき」という考えが覆されたことに腹が立ったのだろう。男性陣の中でも「急にどうして、皆でするようになったの」と疑問の声が上がった。
だが、それは決して「女性だから、掃除して当然」という考えからではなく、いきなり今までの習慣を変えたことによる疑問だ。男性陣は当番に加わる前も「言われたら掃除をするけれど、言われないからしないで良いかな」との認識だったのだ。納得した後は、男性陣は黙々と当番を全うしている。

「女性ができることは女性が行うべき」という考えを古株の女性達が抱き、その考え方に反する思考で行動する女性は、彼女達からしたら「わきまえない女」だ。一方、傍観するしかない、若くて入社歴が浅く、低い立場の者からすれば、時代遅れな考え方をする古株の女性達の考え方を「わきまえていない」と感じる。

第三者からみると、どの立場の女性が「わきまえない女」だろうか。