愛想良く、セクハラ発言も笑って受け流して男を立てる女性社員

私がいた職場の女性社員達は皆、男性社員の扱いが上手い。
誰にでも愛想良く朗らかで、セクハラ発言さえも笑って受け流し、男を立てて世話を焼く。
彼女達の周りにはいつも人が集まり、朗らかな雰囲気だ。
その傍らで、私は愛想もへったくれもなく仕事を進めていた。

仕事と全く関係のない、社内外のオジサン社員達から繰り出されるねっとりとしたお喋りを遮り、無理やり仕事の要件に話を戻す。
当然「怖いね、言い方がキツくない?」「そこまでしなくても」などと男性上司から苦言を呈される。「周りの女性社員達を少し見習った方がいいよ」と。
意地を張らずにうまく受け流し、機嫌を取った方が楽に仕事も進み、可愛がられるのだろう。

けれど、優しくしてほしいのは私の方だ。
5分で終わる仕事の電話が、取引先の誰それが別居してるらしい、なんてしょうもない話で15分に伸びるのだ。
「オジサンは皆寂しいんだ、若い女の子が相手してくれると嬉しいんだ、そこは上手く転がして……」
男性社員からの要求はよくあることだが、私が在籍していた会社では、先輩女性社員からも男性社員への世話を要求されていた。なんとも時代錯誤な会社だが、令和になってもちゃんと存在している。

どうしてこんなになるまで放置したのか。先輩女性社員は嘆いた

ある日、先輩女性社員が数日間、社外へ研修に行くことになった。
チャンスだ。鬱憤の溜まっていた私は、試しに一切の世話をやめてみた。さすがに汚れて邪魔になれば自分達で片付けるだろう、と思ったのだが、甘かった。
私物の汚れたカップがどんどんシンクに溜まっていく。どうやら何とも思わないらしい。
終いには、来客用の紙コップでお茶を飲み始めた。そしてその紙コップさえも、机の上や給湯室へ置きっぱなしにするのだ。目の前にゴミ箱があるにもかかわらず。
スリッパはその辺に脱ぎっぱなし、男性用トイレのゴミ箱はペーパータオルで溢れかえっていく。
非難がましい視線をチクチクと感じる。私を見ながら溜め息をつくなら、自分達で片付ければいいのに……。

数日後、先輩女性社員が帰ってきた。小汚ない事務室を見るなり彼女は私を別室に呼び出し、どうしてこんなになるまで放置したのかと詰め寄り、嘆いた。
女性社会人としてのマナーがなってない、という。私を叱る時の彼女の顔は、どこか追い詰められているような必死な顔に見えた。

そんな彼女の必死さが気になって、後日会社の飲み会で酔った時にそれとなく探りを入れてみた。
両親は共働きで、放課後や仕事が忙しい時は、祖父母や高齢者施設によく預けられていたという。そして「女子たるものは気が利かなければならない」「でしゃばらず、男性を立て、補うよう勤めよ」としつけられたそうだ。
「伝統的な大和撫子に憧れる。女性としてわきまえていることは品があることだよ」
そう彼女は誇らしげに語る。
けれど、それはどこまで本心なのだろう。「気が利くね」と褒められている時の彼女は、私の目には嬉しそうというより、どこかほっとしているように見えた。

女子だからという理由だけで、私は生徒会長に彼女を選ばなかった

実は、以前は私も彼女のようなタイプだった。けれど、中学3年の時のとある出来事を思い出し、「わきまえる女」でいることがだんだんできなくなっていったのだ。
それは生徒会長立候補演説の時だった。私達は中学3年、立候補者は2年生の男女1人ずつ。各々の演説を聞いた後、周囲の女子達がこう言った。
「女が生徒会の会長とか嫌じゃね?性格めんどくさそうじゃん」
「会長はやっぱ男だよね」
「あ~彼女でしゃばるタイプ?」
その時、私はその発言に何とも思わなかった。
「まぁ女子が立候補とか珍しいし、気も強そうだし……今まで通り男子を会長に選べば無難かな?」
深く考えずに周囲の女子と一緒に男子候補へ投票、結局会長はその男子に決まった。

そして後日、落選した彼女が職員室で泣いているのを見た。
「何でですか?立候補理由も演説も彼より私の方が明確だし、本気だったのに……」
悔し泣きをするほど真剣に挑んでいた彼女の思いを知って、女子だからという理由だけで投票しなかった自分が、恥ずかしくなった。

その後、私は女子校、女子大に進学した。当然女子しかいないため、会長も部長も全て女子が担う。
そこでやっと私は気が付いた。女子だから男子だからって関係ない。トップに立ちたがる女は気が強い、面倒くさいなんてただの思い込みだったのだ。
会長になれなかった彼女の悔しそうな泣き顔、「気が利く女」であろうと必死な先輩の顔。今でも忘れられない。

男の後ろに立つ「わきまえる女」は次の世代には決して引き継ぐまい。