コロナに入って社交ダンスを辞めた。
前時代の負の遺産と言っても差し支えないであろう、男尊女卑文化の縮図を目の当たりにしたような気がしたからだ。

ウィズコロナのストレスは、社交ダンスサークルも例外ではなかった

第1次・緊急事態宣言が明けた頃の話である。
とにかくありとあらゆる施設・場所・空間が閉鎖されたときだ。ステイホームなんて言葉が生まれたあとくらいで、三密は控えましょうとか、ソーシャルディスタンスを守りましょうとかが主流になり始めた頃だろうか。

やはりあの頃はまだウィズコロナ生活が異質なものだったのだろう。どこに行っても、ぼんやりと、それでいて尖っているような閉塞感と、そこから生まれる漫然としたストレスに満ちていたように思う。
私が不定期で顔を出していた社交ダンスサークルも例外ではなかった。

その社交ダンスサークルは、地元の社交ダンス講師で主催の方が「ゆるく楽しく踊れる人を増やそう」として立ち上げられたものだった。
つまり社交ダンスの大会に出るといったスポーツ目的ではなく、日々の楽しみを増やす趣味・娯楽目的のための集まりであった。

場所はとある共有ダンススタジオ。そのサークル自体「公共の場」で活動していたのである。だからサークルのメンバーとして顔を出している以外にも他の利用者が常に一定数、存在していた。お互いメンバーが少ないといった理由から、他の集まりの人たちと合同で踊ることもあった。

コロナ禍での寂しさから、女性へのしつこさが増す曲者の小男ダンサー

正直この「他の利用者ダンサー」に結構な曲者がいて、厄介事になっていた。
150センチくらいの小柄な男だったと思う。ダンス講師の旧友だったそうだ。この小男ダンサー、とにかく女性陣に執拗に迫るのである。
何回断ろうが、嫌な顔をしようが、関係なく。執拗にダンスに誘い、断れば断ったでこちらが聞いていても楽しくも面白くもない話をし続ける。

しぶしぶダンスに付き合うことにしても、身長が低いので、めちゃくちゃ踊りにくい。私はどう頑張ってもターンができなかった。相手の腕の下をくぐれない。まぁ、それなりに身長のある相手でも、気の合わない人とはマジで踊れない。本気で息が合わない。これは本当。
正直、ここまで踊っていて気持ちの悪い小娘でも、とにかくダンスに誘ってくるのだから、意味がわからない。完全にいないものとして扱ってくれるほうがこちらとしても気楽である。
もうこの小男ダンサーの執拗さはコロナ禍の寂しさで拍車がかかっていたらしく、いつもの5割増しで気疲れするものであった。

私を性欲処理に使わないで。触られた瞬間、社交ダンスが嫌いになった

そして業界の慣習あるいは不文律なのか「そういう面倒な男も嫌がらずにうまくあしらうのがいい女」という価値観がはびこっていたのである。
私の周りにいた女性陣もその場では「面倒な男性たち」を笑顔であしらい、それなりにダンスをする。つまり『わきまえた女』でいるところ、件の人物がいなくなった瞬間に、ため息をつき、愚痴を言う。誰だって我慢の限界もそれなりにあるわけで。
その場にいた女性陣の中に「内科系の看護師さん」もいたけれど、その人は相当おかんむりであった。

さらに始末の悪いことにその小男、何を思ったのか「俺もダンスを教えてやる」と私を無理やり自分のところに連れて行き、腰だのお尻だのを触り始めたのだ。

この瞬間に、私は社交ダンスが嫌いになった。
いや、本来はダサいおっさんの性欲処理のためにあるものではないのはわかっている。
もっとロイヤリティの高い行為なはずだ。外交関係での立ち回りで必要という理由で、防衛大学でも社交ダンスをするというのは漫画で読んだし。
西洋系ファンタジーでは王道のシチュエーションで登場し、ロマンティックに作品を彩る。
知っている。わかっている。
それでも私は二度と社交ダンスをしたくない。大きなパーティで必要になっても、壁の花でいることを決め込もう。
万が一、面倒な男の性欲処理に使われては、たまったものではない。

社交ダンスをめぐって起こったあれこれって、昭和の忌むべき価値観の塊だと思う。

「何が何でも女は男をたてろ。不機嫌にさせるな」
「どんなに相手が嫌がっていていても、男は女に何をしてもいい」
こういった価値観は昭和バブル共にさっさと消えてなくなってしかるべき、というより女性陣も積極的に蹴飛ばして踏みにじっていくべき悪習だと思っている。
女性陣が甘んじて『わきまえ続けた』からこそ、精神的に未熟な男どもがのさばっているとも言えるのである。後世に残していいものではない。

純粋にダンスが楽しみできているのに、面倒な男のご機嫌取りなど論外なのだ。
というか、社交ダンスに対するロイヤリティを論ずるのであるならば、男性は本来ジェントルであるべきであろうよ。
ときに「社交ダンスの競技人口が減っている」という関係者の嘆きを聞くけれど、そりゃ減るだろうよ。時代遅れのセクハラを古参がやってるんだから、女子は離れていくよ。
昨年末、社交ダンス講師をモチーフにしたCMが物議をかもしたけど、あれに対して「本当に社交ダンスをやってる人に対して失礼だ」とか騒ぐくらいなら、社交ダンス界の腐った前時代的業界意識をなんとかしようよ。

これからも女性と踊れる未来が欲しいんでしょう?
なら女性の人権を担保してくださいな。
女性の人権が担保できない人が、踊る資格なんてない。