もう全て終わりにしてしまおう。
過食からは逃れられなくて、体を引きずって授業に出ても人に囲まれている不安で涙が止まらなくなる。毎晩自己嫌悪に襲われて眠れない。
こんな毎日が続くなんてムリだ。
もうできることは何でもやってみた。どんなに頑張ってみてもダメだった。
もういいじゃん。

……でも。どうせ全部終わるんだったら最後にもう少し足掻いてみてもいいのかな。

現状から抜け出すための最後の挑戦。全力でカウンセリングに臨もう

今まで何も変わらなかった。もうどうにもならないかもしれない。
だけど、苦しくて泣きながらも越えてきたいくつもの夜のことを思うと、このまま終止符を打ってしまうことが悔しくて仕方がなかった。

私は、カウンセリングに通うことにした。
それまでにもカウンセリングを受けたことはあったが、自分のことを話すのが苦手な私は「ちゃんとした人」を演じてしまって上手く頼れなかった。
だから、カウンセリングなんて何にもならないと思っていた。

それでも、この状況から抜け出すには誰かの助けが必要だということはよくわかっていた。
だから、これが最後の挑戦。これでダメならもうおしまい。
だけど。これが最後だから、全力でカウンセリングに臨もう。
そう決めた。

「上手く話せないかもしれませんが、よろしくお願いします」

そう言って始まったカウンセリングでは、とにかく自分の現状を伝えなければと必死だった。今までは質問に対する最低限の回答しかしてこなかったが、今回は関係がありそうなことは何でも話してみた。
それでも、私の話には一貫性がないように思われたし、「わかりません」としか答えられないこともあった。

毎日生きることに必死な私が、カウンセリングの継続で未来まで考えた

「やっぱり上手く伝えられない。やっぱりダメだ。もういいや」
そう思いながらカウンセリングを終えようとしていた時、カウンセラーさんがこう言った。

「もしかしたら辛いかもしれないけど、3回だけでいいから続けて来てみない?」

「はい」
その時は、とりあえず口を動かしただけの答えだった。
けれど、家路についた私は「3回は絶対に行こう。ダメなら諦めよう」と決心していた。毎日、「今日1日だけをとりあえず生き延びよう」と思って生きていた私が、3週間も先のことまで考えていた。

それから毎週、私は真剣にカウンセリングに通った。
カウンセリングを一生懸命頑張るなんて、もしかしたらおかしな話かもしれない。
だけど、私は切実だった。

今までの自分なら真剣に聞かなかったであろうアドバイスも、全て取り入れてみた。
毎日の行動や気分を自分なりに分析しては、試行錯誤を繰り返してみた。
自分でもちょっと馬鹿げてると思う不安も、上手くまとまらない気持ちも何でも話してみた。どうしても話したくなかったことは心に秘めておいたけれど。

3年目の春、大学の卒業より一足先にカウンセリングからの卒業

もちろん、順調に進んでいったわけではない。
伝わらないと感じることもあったし、やっぱりダメだったと結論づけてしまいそうにもなった。あまりに気分が沈んで何日も動けず、連絡もせずにカウンセリングを欠席したこともあった。それでも、少し回復したら次回の予約をとるために苦手な電話を手にとった。

カウンセリング3年目の春、大学の卒業より一足先にカウンセリングからの卒業を迎えた。
過食は落ち着いて来て、授業も卒論もどうにか進められていた。
友達とご飯を食べることだってできるようになっていた。

一緒に振り返りをしたあとで、カウンセラーさんがこう話してくれた。
「初めて会った時、ここで手を離しちゃいけないって思ったの。3回だけでいいから続けてみてって言ったでしょ。行き詰まったと感じた時もあったけど、一生懸命カウンセリングを受けてくれて。私たちいろいろ話したね。本当によく頑張ったよ」

頭に浮かんでくる無数の「頼らない理由」を押しのけて、全てを賭けて手を伸ばした私の切実さが、初対面だったカウンセラーさんにも伝わっていたのかもしれない。

全力で応えてくれる人に出会えた偶然が、私を生き続けさせている

「ありがとうございました」
深くお辞儀をして別れた途端、お別れが寂しいのと頑張った自分が誇らしいのとで涙がこぼれた。

ただ死ぬのが怖かっただけだった。ただ諦め切れないだけだった。
そんな私が誰かを切実に頼ったとき、全力で応えてくれる人がいた。
運が良かっただけ。でも、その偶然が、今にも死んでしまおうと思っていた私を生き続けさせてくれている。

人生は上手くいくことばかりじゃない。実は最近また、調子が悪い。
もしかしたら私は、何の価値もない人間なのかもしれない。
もしかしたら今もまだ、死ねないから生きているだけなのかもしれない。
それでも、必死に助けを求め、死なないために全力を尽くしたあの頃の自分のことを思うと、このまま終わってしまうのは悔しくて仕方がない。