本が好きだ。学生時代は暇さえあれば本ばかり読んでいた。
良くも悪くも自分の体験したことのない世界、例えば同級生と夜通し100キロ歩く行事とか、年上の従兄弟との恋愛とか、ある高校で起きる怪事件とか……。
学生時代、ほとんどの時間を部活や習い事に費やしていた私を別の世界に連れていってくれる唯一の存在だった。そのすべてが私の1つ1つの細胞となり私という存在を形成している。
その一つが「黄色い目の魚」(佐藤多佳子著)である。
この本を買ったのは中学生の時だった。主人公たちは高校生。私の少し先の未来。爽やかな表紙に惹かれて購入した。数年後は、私にもこんな男友達ができて、ゆくゆくは付き合ったり……なんて妄想が膨らんだ。
友達と「絶交」する、主人公のような勇気が欲しかった
村田みのりは家族ともうまくいっていないし、友達ともすぐに絶交してしまう。唯一心を許しているのは叔父の通ちゃん。通ちゃんは漫画家兼イラストレーター。昼も夜も関係ないような自由みたいな生活をしている。木島悟はサッカー部。両親は既に離婚していて、女手一つで育てられた。父親には小学生の頃に一度会いに行ったが、その後死んだ。似顔絵を描くのが癖。この2人の高校生を描いた物語だ。
この物語の前半に中学生のみのりが出てくる。
「中学に入ってから、3ヶ月ちょっとの間に私は3人の女の子と絶交した」
私にもこんな勇気が欲しかった。
私も友達と絶交したことはある。でもそれは幼稚園とか小学校低学年の時に、やりたかった遊びが違うとかそんなことでちょっと喧嘩みたいになったときに、覚えたての「絶交」という言葉をただ使ってみたかっただけだった。翌日には並んで絵を描いていた。
成長するにつれて、気がついたら絶交なんて言葉を口にすることもなくて、なんとなく気が合わない人との関係は潮が引いていく時みたいに徐々にフェイドアウトして行くようになっていた。
高校でできた友達に提案され、別の新しい友達を無視するように
高校生になってMという友達ができた。入学式の日にMから声をかけられて、その日の帰りから同じ電車で登下校をするようになった。片道40分の通学電車、同じ部活に入り、仲良くなるには十分すぎる時間があった。
しかし、多くの時間を過ごすにつれて相手の嫌な部分も見えてくる。
私にはもう1人別にNという友達ができた。Nは親同士の職場が同じで、偶然同じクラスになったことをきっかけに知り合った。お笑い好きの面白いやつ。だけど、Mは私がNが仲良くすることが許せなかったらしい。
「あいつのこと無視して?」
翌日から、私はMと一緒にNを無視することを選んだ。Mに「それはできない」とだけ言えばよかったのにそれができなかった。唯一の救いはMが無視を提案したのは、私だけで、Nが他の子達と仲良くつるんでいたことだった。
Mはその後も、私が仲良くなりそうな子が出てくると「無視して」と言ってきた。その度に罪悪感が沸いた。
それでも私はMを優先した。そんなことをするMを嫌いなはずなのに、嫌いといえない。逆に言えば、嫌いな部分はそこだけだった。多くの時間を共有するMの言うことをことを受け入れてしまった。
主人公の「絶交」は自分の判断であり、私とは違っていた
ある日、なんとなく「黄色い目の魚」を手に取った。いつの間にか、みのりと悟と同い年になっていた。嫌いをはっきりと主張するみのりと人の嫌いを優先する私。対極にいた。
人を嫌うのはしょうがない。でも、傷つけてしまってはダメだ。「無視して」を受け入れた私も同罪だ。
みのりはたしかに嫌だと思ったら、すぐに絶交した。でも、彼女は一人で戦った。嫌いと言われた友達が傷ついて、自分が間違えたことをしたと気がついた時には、もがきながら解決策を考えた。みのりは悟をきっかけに周りの人と話すようになったけど、Mは私の人間関係を狭めていく。
2年生でも同じクラスになり、他の女の子たちに「2人もお弁当を一緒に食べよう」と誘われた時も「それ断ってきて」と言われた。本当は「あの子達と仲良くなりたいな」と思っていた。でも、どうせ仲良くなっても、いつかそれはMによってまた断絶される。
私は、せめてまた人を傷つけることはしないようにと、諦める道を選んだ。それが私がもがいて出した解決策だった。