幼馴染であり親友でもあるNは、可愛くて、性格もよくて、何でも要領よくこなす子だ。そんな完璧な子の隣で、わたしは学生時代を過ごした。

わたしたちは同じ高校に行き、同じダンス部に入り、ずっと仲良し

わたしたちは、第一志望の同じ高校に合格した。クラスは離れてしまったが、同じダンス部に入った。小学校から習い事で、ダンスをやっていたわたしたちは、部活での最初のオーディションでは先輩から同等の評価を受け、お互い前列で踊っていた。つまり、部活でのスタートラインは同じだった。

見た目が派手で外交的な性格だったわたしは、派手なグループに属した。落ち着いた雰囲気で内向的な性格のNは、派手なグループには属さなかった。それでも、私たちの仲は変わらなかった。

Nとは同じグループで行動するというより、一緒に過ごすときは2人で遊ぶことが多かった。家が近所だったこともあり、行きは駅で待ち合わせをして同じ時刻の電車に乗って登校していたし、帰りも部活が終わったら必ず一緒に下校していた。

入学してしばらく経った頃、わたしは同じクラスのMくんのことが気になり始めていた。Mくんと同じグループにいた友達にお願いして、連絡先を交換した。Mくんはメールをすぐに返してくれるタイプで、すぐ仲良くなることができた。もちろんその状況をNに報告した。「早く付き合いたい」と浮かれているわたしを、Nは笑顔で「頑張れ」と応援してくれていた。

ところが、ある日突然Mくんからメールが返ってこなくなった。わたしはすぐにNに相談した。Nも戸惑っていた。だが、すぐにNはわたしと違うことで戸惑っていることが分かった。Nは、Mくんに連絡先をきかれていた。わたしの恋は、呆気なく終わった。

Nは大好きな親友だったが、なんでも上手くいく彼女が羨ましかった

部活でもNは活躍していた。大会がある度に選抜され、センターで踊ることも多々あった。同じスタートラインにいたはずなのに、わたしはセンターどころか選抜チームに入ることすら出来なかった。

Nは何も悪くない。頭では分かっているのに、恋も部活も上手くいかない自分と比べてしまう相手は、いつもNだった。羨ましくて何度も泣いた。「天は二物を与えず」というが、Nはすべてをもっているように見えた。それでも、大好きな親友であることに変わりはなかったし、仲が悪くなることもなかった。

受験期になり、Nは地元の大学に、わたしは東京の大学に進学したが、帰省するたびに会う約束をしてお互い近況報告をしたので、離れ離れになった感覚はなかった。そして、この頃には自分から醜い感情が出ることはなくなった。比べることも自然となくなった。

20代半ばになってからは、恋愛の話が多くなった。誰が結婚したとか、子供が産まれたとか、そんな話で盛り上がった。自分自身の恋愛のことは、Nに殆ど報告した。その都度、Nは「いいな~」とだけ言った。「Nはどうなの?」と聞いても、「何もないよ~こんな田舎じゃ出会いすらないもん」と答えることが殆どだった。今思えば、Nから「恋愛が上手くいっている」と報告を最後に受けたのは大学生のときだったし、その彼とも社会人になってから別れてしまっていた。

わたしはNが羨ましかったけど、彼女はわたしを「羨ましい」と言う

いつも通り、会う約束をしていた日のことだ。Nは「近所の安い居酒屋で飲みたい」と言った。LINEの文面から、あまり元気ではないことが伝わった。

やはり、その日のNは元気がなかった。以前からLINEで「仕事が辛い」と言っていたから、てっきりその話かと思い、仕事の悩みを聞いていた。小一時間が経ち、酔っ払ってきた頃、Nは突然机に突っ伏して涙目でポツリポツリと話し始めた。

「『いい子』って言われることに疲れた。全然いい子なんかじゃないのに。本当の自分を隠すことに慣れちゃったから、気を許してる友達以外に今更素直になんてなれないよ。少し本音を溢すだけで『そんな子だと思わなかった』と言われて、上手くいかない恋愛ばかり。わたしは、ありのままの自分を受け止めてくれる人と恋愛してるゆきえってぃのことがずっと羨ましかったよ」と。

わたしは「隣の芝生は青いとはこのことか~!」と笑いながらNに寄りかかった。「ねえ!真面目に話したのに何で笑うの!」そう言ってNも笑った。