「頼る」と「甘え」の境界がわからないまま、20歳を超えた

私が月8千円の食費で生活していた時の話をしようか。
その前に聞いてほしいことがある。
それは、私は人に甘えるのが苦手だってこと。

ひどい時には、重い荷物を持つのを「手伝うよ」と手を差し伸べてくれた人に「自分でできるし!(キレ気味)」と言ったことさえあった。できないと言われているようで腹が立った(その節はほんとうにごめんなさい)。
人に頼るのと悪い意味での甘えの境界、そして「頼っていいよ」の受け取り方がわからないまま20歳を超えてしまった。
基本的に人前では、全部一人で抱え込んでしまう。自分はできる人だ、と思っていたいし、頼って迷惑をかけて嫌われたくない。そんなこんなで、誰かに頼りたいと思った時でも、勝つのはいつもプライドと恐怖だった。

彼と一緒にいたいから、月8千円の食費で具なしオムライスを食べる日々

一から十まで、一人でしたい。
自分の範囲で迷惑はかけられない。
でも、人にうまく頼れて、可愛がられているあの子が羨ましいという気持ちがある。
「頼らない、頼れない」。
そんな私が、学生時代、恋人に金銭面を頼ったことがあった。

私には当時付き合っていた彼がいた。
賢くて大人で、私と同じくオムライスが好きな自慢の彼だった。
デート代は、対等でいたいという彼の意向で、割り勘だった。
ちなみに、一回のデートで3千円は使った。それが毎週末となると、月最低1万2千円。
彼と付き合ってから私の食費は、月8千円になった。
それからは、毎日のように自作の、具材が入っていないオムライスを食べるような生活をしていた。そんな食事をしていたからか、私の体重は、半年で6キロほど落ちた。
それでも彼と一緒にいたかった。
痩せられてラッキー、とすら思っていた。
彼に、好物のオムライスを振る舞うたび、私は卵をお米に綺麗に盛り付けるのを失敗していた。
オムレツの部分は剥がれたりちぎれたりで、せっかくの綺麗な黄色の見栄えが悪くなった。
私はケチャップで真っ赤なハートを描いて、空いた穴をごまかした。
そんなオムライスを彼は「美味しい」と文句ひとつ言わずに食べてくれた。私もぐちゃぐちゃなオムライスを、甘酸っぱいケチャップと一緒に飲み込んだ。

もうだめだ。見栄やプライドも全部置き去りにして彼に事情を話した

ある日、メイク用品の一つが底を尽きた。千円もしないプチプライスのものだった。
新しいものを買わなくては、そう思うと同時に、そんなお金がどこにある、という言葉が頭をよぎった。千円もしない化粧品一つ買えない。これはもうだめだ、と思った。
私の空いた穴は塞がらない。もう彼への気持ちだけではどうにもならなかった。誰かに頼るしかなかった。
両親には言えなかった。友人にはとてもじゃないけど、もっと言えない。
何の気なしに聞いた彼の家賃は、私の家賃と食費、デート代を合わせた金額より高かった。つまり、彼の周りには私よりもお金があった。
私は彼に相談することにした。

今までお金の話をしてこなかった私だが、意を決して、自分の金銭事情を彼に伝えた。
負けず嫌いも、見栄やプライドも全部置き去りにして、「頼らない、頼れない」そんな私にも穴を空けて、私は彼に自分の事情を話した。

初めて人に頼れた小さなハッピーエンドは今、日常に姿を溶かしている

今まで気が付けなくてごめんね、と彼は言ってくれた。デート代は彼が出してくれることになった。
これが家族以外の人に、自覚して初めて頼った時だった。
これをきっかけに、彼には少しだけ頼れるようになった。相談ごとを聴いてもらったり、わがままも言えるようになったし、重い荷物を持ってもらった時は、ありがとう、と言えるようになった。
そんな小さなハッピーエンドは今、日常に姿を溶かしている。

あの時の彼は夫へと名前を変え、今日も一緒に夕飯を食べる。あの時の8千円は、2人の2週間分の食費へと姿を変え、メイク用品だって不自由なく買える。
オムライスも綺麗に作れるようになった。
ああ、でも私、まだ頼るのが下手だね。ふとした瞬間にそう思う。
ねえ、素直になれたらまた頼らせてよ、大好きなオムライスも、また作らせて。
ハートで隠さなくても、綺麗に作れるようになったからさ。