「300万円貯めたら死ぬ」
それは、仕事もプライベートも生き詰まった時に決めたことだった。

小さなケアレスミスから、周囲は一変。社会人で初めての挫折

当時、商社勤めだった私は、サプライヤーの品質管理を担当していて、分かりやすく言うと、“BtoBでのカスタマーセンター”という、いわゆるクレーム対応業務がメインだった。
商品開発志望だった私は配属当初はひどく落ち込んでいて、やる気も起きなかったのだが、上司や同僚、サプライヤーの担当者など、人間関係に恵まれたおかげで、徐々に仕事にやりがいを持てるようになり、長時間労働でも数多くの仕事をさばくのが楽しいとさえ思っていた。

しかし、小さなケアレスミスから、クライアントの逆鱗に触れることになる。
今まで信頼ポイントを稼いでいたのに、たった一つのミスで周囲は一変。私の一挙一動を監視し、今までは見逃していたようなミスもつついてくるようになった。
同期の中でも、頭一つ抜けていると思うくらいに自信を持っていた私にとって、社会人で初めての挫折だった。

結婚前提の彼と破局し、人生に絶望。死ぬために300万貯金を決めた

それに加えて、のしかかってきたのが、結婚を前提に付き合っていた彼氏との破局だった。同棲を始めるにあたり、お互いの実家へ軽く挨拶に行くことになり、結婚というステップへと着々と進展していた頃だった。
彼の母親、つまり将来の姑となる人と、話や思考が全く合わなかったことに加えて、彼は常に母親の味方で、彼の実家での私は独りぼっちだった。
これが一生続くのかと思うと、耐えられなかったし、急に今まで知らなかった彼の、それも私にとっては不快すぎる一面を見て、一気に冷めてしまった。
とどめの一撃は、彼がお気に入りの女の子がいる風俗に定期的に通っていたということを知り合いづてに知り、愛されていると信じていた私の目の前は真っ暗になった。

仕事もうまくいかない、結婚の予定もなくなった。齢25歳にして、これからの人生に絶望した。
信号の色も確認せずに、目をつぶって横断歩道を渡ったこともある。生きることへの執着がなくなりつつあった私は、死後の処理にいくらかかるのだろうと試算し、最低300万円は必要だという結論に至った。
死ぬからには、家族に迷惑をかけないように死のう。
破滅的な目標に向け、感情を無にしてこつこつと働き続けたら、あっという間に300万円が貯まってしまった。

死ぬ前にしたい事が増え、貯金額を変更。生きるための貯金に変わった

いざ、300万円に達した時に思ったのは、どうせ死ぬんだったらハイブランドのバッグが欲しい。発色の良いデパコスを楽しみたい。ヨーロッパへ旅行に行きたい。
貯金目標額を更新していくうちに、いつの間にか、死ぬためではなくて、“まだまだ生きるための貯金”へと目的が変わっていった。

今思い返すと、たった300万円で死後の家族への迷惑がなくなるというのは大間違いだ。こんな風に、お金で解決できない物事は世の中にたくさんある。

ただ、お金があることで選択肢が広がるというのは揺るぎない事実だ。だから、選択肢を広げてくれる『お金』は、希望の光でもある。
これからも、こつこつとお金を積み立てて、未来の私にたくさんの希望を与えたいと思う。