私は駆け引きをするのが不得意だ。
そもそも好きな気持ちを隠せない。「好きだ!」と思ったら想いが伝わるまで言い続ける。
そんな駆け引き下手な私が、「好き」の押し売りで射止めた人生初彼氏。
一度別れたものの、再び急接近した中学3年生のバレンタインの話だ。
彼も将来も諦めたくないから、市販のチョコを選ぶというのは建前で
私には、自分が可愛くないという自覚があった。
否、元カレのタイプではないという自覚があった。
元カレの歴代の彼女を並べると、私だけ明らかに系統違いだ。
恋多き元カレに比べて私は元カレが初めての恋人だ。
経験値が全く違う。
復縁出来るかもしれないという非常に幸運な機会を得たにもかかわらず、戦略が何もなかった。
加えて私の精神を蝕んだのは、高校受験だった。
中学3年生の2月。
第一志望である公立高校の入試を目前に控えていた。
自分の将来と、好きな人。
どちらも諦められなかった。
しかし私は受験が終わるまでは、勉強だけに専念すると決めていた。
告白もせず、チョコも市販のものを贈ろう。
だって受験勉強に集中しなければいけないから。
というのは建前で、どちらも本当の理由は別にあった。
告白しないのは、元カレからの告白を待っていたからだった。
私には自信がなかった。
だから元カレからの「好きだ」という言葉が欲しかった。
そして市販のチョコを贈ることにしたのは、大人びている元カレに相応しい人になりたくて、背伸びしたからだった。
高級チョコに「好き」ではなく感謝の言葉を書き、駆け引きに出た
私と元カレは同じ地域の中学生といえども、育ってきた環境が全く違った。
経済的な余裕があまりない私と、裕福な元カレ。
対称的な環境に恥ずかしさを感じていた私は、高級チョコを贈ることで、対等になろうと思った。
勉強のためだと真っ当な理由を掲げていたが、本音はこうだったのだ。
ショッピングモールで2時間悩み、なけなしのお小遣いをはたいて高級チョコを買い、手紙を書いた。
去年の私ならきっと「好き」と書いていただろう。
しかし今年は愛の言葉ではなく、日々の感謝を書いた。
駆け引きに出たのだ。
しかも人生で初めて贈る高級チョコ。
そうすればきっと、普段の私とのギャップに驚いて、ホワイトデーでは彼の方から好きだと言ってくれるはず。
これが、未熟だった私が、やっとの思いで練り上げた戦略だった。
チョコを渡してからは、来月のホワイトデーを楽しみにしつつ受験勉強に勤しんだ。
そしてついに訪れた3月上旬。
ホワイトデーのお返しは、私が贈ったチョコよりも遥かに高級なチョコだった。
なんとなく、自分の贈ったチョコが恥ずかしくなった。
もちろん私が贈ったチョコだって、美味しいし、作り手の想いがこもった素敵な商品だ。
ただ、いくら背伸びしても私では彼のチョコに手が届かない。
それなら私は、いつも通り手作りチョコで勝負すればよかった。
そうすれば何かと比べる必要なんてなかったのに。
もし好きだと言えていたら、違う未来があったのだろうか
そのまま卒業式が来て、第一志望の高校には合格していることが分かった。
新生活への期待に胸を高鳴らせながらも、心の片隅にあるのはバレンタインデーの後悔だった。
結局彼から告白されないまま、高校に入学するときには、もう連絡が取れなくなっていた。
今でもときどき考える。
もしあのとき手作りチョコを渡していれば。
もちろん何をあげたかなんて関係ないことは分かっている。
それでもいつもの私で勝負できなかったことが悔しいのだ。
もしあのとき好きと伝えていれば。
彼と連絡が取れなくなったのは、私が告白しなかったことだけが原因ではないだろう。
だけどそれでも、もし、好きだと言えていたら。
違う未来があったのだろうか。
駆け引きなんてせずに。
2月が近づくと決まって思い出すのは、元カレのことだ。
高校生の私に恋人はできなかった。
それで中学時代の甘酸っぱい思い出を、いつまでも忘れられずにいるのだ。
もうどうしたって、あの頃には戻れないのに。
高校3年生、今年も2月がきた。