大学1年生の夏。私は運転免許を取得するために、近所の教習所に通い始めた。
各教習の先生は、乗車毎にランダムで決まっていた。ある日、1人の男性教官と乗車することになった。
彼は若く、高身長で、イケメンだった。おじさん教官ばかりの教習所では、一際輝いて見えた。乗車中、普通の教官は「左折してください」などと指示を出すだけだったが、彼は世間話を始めた。
車を運転することが不安で、いつもは緊張でガチガチだったけれど、楽しく会話をしていたら自然に緊張が解け、運転することが楽しくなった。
まさか教習所で恋愛をするなんて。私は教習所の教官に恋に落ちた
次の日から、私は2階の待合室から彼がどこかにいないか無意識のうちに探していて、彼を見つけると目で追っていた。私は恋に落ちた。まさか教習所で恋愛をするなんて。これがいわゆる“教習所マジック”か。
学科の授業が終わった後、たまたま彼とすれ違った。すると彼は、「こないだ乗車した子だよね、最近は何か不安なこととかある?なんでも聞いてね」と話しかけてきた。私は彼に認知されていることの喜びで内心飛び跳ねていた。その後は教習以外の時間で、駐車や学科試験の質問をして、次第に仲良くなっていった。
卒業前試験に無事合格し、教習所を卒業する日がきた。彼は「合格おめでとう」と声をかけてくれ、お昼休憩が終わるギリギリまで話した。別れる前、私は勇気を出して彼に連絡先を聞いた。
それから私は彼と連絡を取るようになり、何度か2人でご飯に行って、付き合うことになった。何ヶ月も恋をしていた彼が自分の彼氏になったなんて。夢のようだった。
大好きな彼と初めての性行為。少し怖かったけど、安心した
彼はバイクに乗る人だったので、よくバイクで東京観光をしたり、様々な所に行ったりした。付き合ってから2ヶ月が経った10月、ホテルに行った。私はそれが初めての性行為だった。性行為に対して若干の恐怖感はあったが、大好きな彼とだったので、私は安心してできた。
全てを曝け出し、最大の愛情表現でもあるので、その日以降深い話をするようになったり、お互いの悩みを打ち明けたり、信頼関係や愛が、より深くなった。私はこんなに人を好きになったのは初めてだった。
それから2ヶ月。いつものように電話が始まり、他愛も無い話で笑い合った。いつものように電話を終わろうとしたその時、衝撃が走った。
「実は、別れたいと思ってる」
思いも寄らぬその言葉に、私は何も返すことができず、ただただ涙が頬を伝って行った。悲しくて、苦しくて、その日は眠れなかった。
それから数日。姉や友達に、話を聞いてもらったり、趣味に没頭したりして、なんとか落ち着いた。けれども、何かが足りなかった。男の人の温もりが欲しかった。代わりの人でいいから。
そんな思いで、私はマッチングアプリをダウンロードした。女性の方が男性に比べて容易にマッチする仕組みになっているようで、アプリを入れたその日に何人かの男性とマッチした。メッセージのやりとりをしている中で、1人の男性と会うことになった。
大好きだった元彼を忘れたくて、気持ちのない男と過ごしてわかったこと
当日。会ったことのない人と待ち合わせをするのは初めてだったが、メッセージや電話でのやりとりを何度かしており、年齢も近かったので、緊張しなかった。食事をしながら、お互いの趣味の話や好きな芸能人の話、大学生活などについて話した。
食べ終わっても話し足りなかったので、ハシゴして居酒屋に行った。軽くお酒を飲んで、お互いに気持ち良い程度に酔って、店を出た。
すると彼から、「行く?」と聞かれた。なんの情報もない2文字だったが、時間的にも流れ的にも、勘づいた。付き合ってもいないのにそのような行為をするのには抵抗があったし、相手は初対面だったけど、「もしかしたら私の寂しさが埋まるかもしれない」と思い、承諾した。
私たちはホテルに向かった。しかし、私の予想は大きく外れた。寂しさは埋まるどころか、さらに大きくなってしまった。
「何してるんだろう。私」
虚しくなり、自己嫌悪に陥った。
恋愛感情がない人で失恋の苦しさを紛らわすことは、逆効果だということを切に感じた。未練がなくなり、新しい恋を見つけられるまで、時間で解決するしかないと思った。
教習所の彼と別れた日から約1年が経った去年の11月。私は新しい彼氏ができた。サークルの同期で、なんでも話し合える、1番仲の良い友達だ。どうしようもなく相手を想うこの気持ち。この上ない幸せを感じている。
人に頼ることは生きる上で大事だが、頼る人を考えて、自分を大切にすることが重要なのだろう。