ナッツ類やシナモンアレルギー。バレンタインは居場所がなかった 

私には食物アレルギーがある。
アーモンド等のナッツ類や、シナモンなどだ。
表示が義務付けられている特定7品目のなかの『落花生』も当てはまるが、それらのように分かりやすく表示されているわけではないので、食品を購入するときは必ず原材料表示全てに目を通す。
高校生あるあるのもぐもぐタイムでの菓子交換は、自分は相手に手間を掛けさせてしまうのであまり参加していなかった。してもアレルギーのことを教えていて、快く配慮をしてくれる親しい友人たちのみだった。

しかし、そうは言ってられないのがバレンタイン。
通っていた中高では、すれ違う人にお菓子を文字通りバラ撒くのが慣例だった。
そこで「そのお菓子ってアーモンドとか入ってる?」と聞くのはかなりの無粋だ。
しかし受け取らないのも角が立つ。
私は曖昧に笑って自分の持ってきた菓子と交換し、おなかすいてなくて……と言って持ち帰り、家族にあげていた。
しかし自分は食べずとも、バレンタインデー当日は皆が周りでもぐもぐする。
匂いをかぐだけでもアレルギー症状が出てしまう私は、かなりきつかった。
経口摂取ではないからそんなにひどい症状にはならないのだが、きつい。だからといって二月に自然な流れで窓を開けるのも難しい。
なるべく匂いを吸わないように浅く呼吸をしながら、うつむく。
みんな楽しそうに菓子を交換して、楽しそうに食べているのに。その輪に加われない自分には居場所がないように思っていた、中学時代。

原材料が書かれた箱を持ってきてくれた『陽キャ』の同級生

それが変わったのは、高校一年のとき。
たまたま廊下ですれ違ったいわゆる『陽キャ』の同級生の女の子に、個包装でなくごそっとむき出しで入ったチョコを缶ごと差し出された。

持ち帰れないし、一度素手で触ってしまったら友達にあげることも難しい。
手を伸ばすのを一瞬ためらってしまったら、女の子は「ん?」と首をかしげた。くせのないきれいな黒髪が肩口でゆれるさまを、今でもよく覚えている。
「あ、アレルギーだっけ」

学年200人程度の中高一貫校。どこからか聞いたのだろう、彼女は「えーと」と言いながら缶をくるくる回して、おそらく原材料表示を見つけようとしてくれた。
「あっ、いいよ、そんな」
私はあわてて止めたが、どうやら缶には書いてなかったらしい。
「これの入ってた箱、まだカバンに入れてあるから持ってくるよー」
そう言って、「ちょっと持ってて」と私に缶を持たせて走っていってしまった。
缶を渡されてしまったから、このままフェードアウトするわけにもいかない。途方にくれながら待っていると、たたーっと彼女が戻ってきた。
「一応見てみたらアーモンド?とか入ってなかったけど、自分で見てみてー」
外装箱を押し付けてくる。
私は面食らってとっさに箱を受け取り、習慣通りすーっと原材料表示に目を通す。
アーモンド、ナッツ、シナモン。そのような表示がないことを確かめ、礼を言って箱と缶を返す。
「だいじょぶだった?じゃあ食べてー」
間延びした語尾が特徴の彼女は、ぐいっと缶をこちらに向けた。チョコをつまみながら、「わざわざありがとう」と伝えると、彼女は相変わらず「んー」と伸びた語尾で返事をし、通りがかった他の子にすぐにチョコを押し付けに行ってしまった。

原材料をチェックしたり、特別なチョコをくれたり

次の年のバレンタインは、驚きから始まった。
『陽キャ』ならではの情報網だろうか、「yukimaちゃんアーモンドとかアレルギーらしい」と、同級生の全員と言っていいほどに知れ渡っていた。
みんなが「これアーモンドとか入ってないよ」と言って渡してくれたりとか、「よくわからんから見て」と原材料表示を見せてくれたりとか、「yukimaちゃんのはアーモンド入れる前に作ったから混入してないよ」と手作りの中の特別のチョコをくれたりだとか。

「アレルギーだから渡すのはやめよう」ではなくて、「だから対策してみたよ」と言ってくれたのだ。
去年のロングボブの彼女がきっと何か言ってくれたのだろう。
今度は有名メーカーの個包装のチョコを私の手にポンと置いていった彼女にそのことをお礼するも、「んー?」とはぐらかされて、私のチョコと彼女のチョコの等価交換しかしてくれなかった。

疎外感を味わう日だった中学時代のバレンタイン。
高校二年のバレンタインは、優しさを味わう日だった。