数は人気のバロメーター。推しに買い占めたチョコを送る
バレンタイン。私にとっては、推しの人気順位を世間に知らしめる時期。
私の好きな作品では、バレンタインの時期になるとキャラクター宛てにチョコレートや好きなものなどグッズを送り、その総数を集計し、キャラクターごとに集まったチョコの数を人気順位として発表するという一風変わった恒例行事がある。近年はあまりにも送られてくる数が多すぎたゆえに、募集は続けるが集計はしないということになったらしい。
今年も、人気順位の発表がされなくても、私は推しキャラに応援や感謝の気持ちを込めて手紙を送る。ご時世柄もありチョコレートを贈るのは遠慮したが、手紙ならきっと原作者の先生がお読みになり、喜んでくださるはずだ。
チョコレートを贈るようになったのは、そのキャラクターを好きになった小学生の時から。毎年、既製品のチョコレートをお小遣いの許す限り多く買い占め、大きな段ボールに詰めて発送した。
そんな高校の頃だった。
この年も例外なく順位を上げるために多くのチョコレートを贈る。ダンボール1箱で1票とされたのか、ダンボールの中身の数全てを票数にカウントしてくれたのかは分からないが、とにかく買える分だけ買い、箱に詰めた。
アルバイトを始めたので、当時史上最多数のチョコレートを贈ることができた。
今年も推しが1位になりますように。その年は別のキャラクターが一人の人から8000個ものチョコレート菓子をもらった、ということが発表され、多くのファンが困惑したのを覚えている。だからこそ私もなるべく多くの票数を推しに入れたかった。
そしてバレンタイン当日。いもしない推しが、大量のチョコに囲まれて喜んでいる姿を想像しながら登校した。すると友人が私に、感謝の気持ちを手作りクッキーに込めて渡してくれた。
友人から「感謝の気持ち」のチョコ。私はすっかり忘れていた
最初は「なぜ私にお菓子を?」と疑問符が浮かんだ。今日がバレンタインだと分かっても、自分はもらう立場ではないと思っていたからだ。
しかし友人は、今日は普段の感謝の気持ちを伝える日として、私や他の友人に手作りクッキーを振る舞っている。女子校なので浮かれたイベントは起きないが、普段言えない気持ちを友チョコで伝える日は、この日しかなかった。
愚かだった。私はすっかり忘れていた。
身近な人へ感謝や愛の気持ちを伝えるイベントが、本来のバレンタインのはずだ。それを私はお小遣いの全てを推しへの愛に注ぎ込み、友人への感謝の思いを無視してしまった。
その日は一日、後悔の気持ちで沈んだ。「チョコ用意したのに持ってくるの忘れちゃった!」と咄嗟に嘘をついた自分も見苦しい。
そんなものを用意するお小遣いなんてもうない。お給料日は毎月5日。14日の時点で使い果たして素寒貧。
ピンチの時ほどずるいことを思いつきやすいのが人間。放課後、母に「一口チョコ食べたい」と連絡して買ってもらい、次の日に友人に配り歩いた。しかし配り終わっても、懺悔したい思いは続いた。
大事なことはチョコではなく、相手に感謝の気持ちを届けること
バレンタイン。日頃の感謝、または愛の気持ちなどを伝えるハッピーなイベント。日頃から感謝の気持ちがあっても、このような日が来ない限りなかなか伝えられないではないだろうか。
大事なのはチョコを渡すことではなく、感謝の思いを自覚して伝えることだと、その年で学んだ。
量より質。その質は、相手に対して真摯なものでなくては、感謝の気持ちを真っ直ぐに届けられない。高級チョコよりももらって嬉しいものとは、誠実な態度と関係だと私は考えている。その形骸化がバレンタインチョコに過ぎない。
今年も推しに感謝や応援の気持ちを贈る。そして、周りの仕事仲間、友人にも感謝の意を伝える。
これからも素敵な関係を築きたいという願いを伝える、それが私のバレンタインデーだ。