わたしのバレンタインの思い出は、好きな人にチョコを渡したかったけど恥ずかしくなって渡せなかった、といった甘酸っぱいものではない。少し変わった中学生の時のバレンタインの思い出である。

学校にこっそりチョコを持ち込んでいた私たち。ところが「告げ口」があり…

わたしが通っていた中学校は校則がかなり厳しい学校だった。漫画やCDといった不要品の持ち込みは禁止されていて、もし見つかった場合は反省文を書いたり、奉仕活動をしたりしなければならなかった。
もちろん、バレンタインのチョコレートも例外ではなかった。

わたしが中学二年生の時、わたしはクラスの友達と一緒にチョコを交換してバレンタインをこっそりと楽しんだ。いわゆる友チョコというやつである。
おそらくわたしだけでなく、学校全体の女子生徒が友チョコを楽しんでいた。学校でチョコを食べるわけではなく、こっそり交換して持ち帰り、家で皆が作ったチョコを食べるのを楽しみにしていたのだ。
バレンタイン当日はみんな何事もなく終わったのだが、大変なのはその後だった。

翌日、ある生徒が部活中にチョコを渡しているのを見たと、先生に告げ口したのだ。
誰も得をしないチクリ。そこから学校では一斉に不要品の持ち込み調査をすることになった。アンケートを配られ、自分が何を持ち込んだのかを記入して、その後に先生と面談することになった。
わたしを含め、ほとんどの生徒が正直にチョコを持ってきたとそのアンケートに書いて、面談の時も友達とチョコを交換したことと、それを反省していることを先生に伝えた。
その調査のせいで多くの生徒が反省文を書くことになったり、部活に参加できなかったりと学校全体がバタバタしていた。わたしも部活に参加することが遅くなったため、後輩や顧問に迷惑をかけることになったのだった。

「調査」で部活にも迷惑をかけたわたしは、顧問の先生に謝罪しようとした

わたしは部活の顧問の先生にも迷惑をかけたことを申し訳なく思い、土曜日の部活が始まる前、一人で職員室に謝りに向かった。
顧問は普段はとても厳しい先生だった。部活で遅刻するなど他の部員に迷惑をかけるようなことがあったら絶対に叱られたし、部活以外でも他の生徒が厳しく指導されているのを目にしたことがあった。だから当時先生に謝りに行こうとしたときは足がすくんでしまって、なかなか職員室に入れなかった。
やっとの思いで職員室に入って顧問に謝ろうとしたものの、顧問に「そのことは後で話すから」とあっさり保留されてしまった。わたしはその時、「先生に見限られた……」とひどく落胆してしまい、その後の部活にもあまり身が入らなかった。
これから部活に参加させてもらえなかったらどうしよう。副部長を解任されたらどうしようと、今考えるとそんなことあるはずないのだが、当時はぐるぐるとマイナス思考の悪循環に陥ってしまっていた。

そしてその日の部活の最後、先生から話があった。厳しい先生だったため、お叱りを受けると思い、わたしたちは身をぎゅっと引き締めた。
しかし、先生から言われたことは、当時のわたしたちからしたらとても意外だった。
「まあ、バレンタインのことは先生、あまり気にしていません。そりゃ、みんなバレンタイン楽しみたいでしょう!だからいちいち咎める気はありません。これからバレンタイン以外の不要品の持ち込みには気をつけましょうね」というものだった。
いつもは厳しくて、今回のことももちろんご立腹だと思っていたから、その言葉を聞いたときはかなりびっくりしたけど、同時にとても安心したのを覚えている。

今では悩んでいたことも馬鹿らしいが、先生には感謝している

大人になった今考えてみると、先生が職員室でわたしの謝罪を保留にしたとき、周りに他の先生もいたため、先生自身の考えを言ってしまうのは気まずかったのだろう。
しかも、先生方からすればバレンタインに生徒がチョコを持ってきているということは想定内だっただろうし、いちいち咎める気はなかったはずだった。

大人になった今でもバレンタインの時期になるとこの事件を思い出す。
当時は規則を破ったことに思い悩んだりしたが、今になってみると何であんなことで悩んでいたのだろうと馬鹿らしく思ってしまう。
しかし、当時の顧問がわたしたちにくれた言葉には今でも感謝している。