何年経っても財布の中でずっと眠っているものがある。大森くん(仮名)がくれた「欲しいものがわからないから自分で選んでください。それをプレゼントします券」だ。
ポイントカードよりは小さいけれど、切符よりは大きいくらいのサイズ感。ルーズリーフの切れ端だと思う。注釈で「使わない限りいつまでも有効」とか書いてある。
もしもまた会えたなら、まだ使えるのかなぁとかちょっと考えちゃう。可笑しいね。
財布を整理するたびに見てしまう「券」。そして「会えたなら」と思う
これを大森くんから貰ったのは7年前。桜舞う3月の、私の15歳の誕生日のことだった。
彼とは中学校と塾がずっと一緒で、付き合ってはいないけれど確実に両想いだった、と勝手に思っている。
「おはよう」から始まり「おやすみ」で終わる毎日のLINEのやり取りは、当時の無垢な私をどこまでも舞い上がらせた。
しかし残念なことに、私が女子校に進学したために高校が離れてしまい、彼とは疎遠になってしまった。券は未使用のまま、今も財布の中にひっそりと身を潜めている。年々しわしわになってきた気もする。
この話は色んな友達にしているのだが、「そんなのもう捨てちゃいなよ~(笑)」と話す人話す人に言われる。でも、中学時代の淡い思い出も手放してしまうようで、何故か捨てられないでいる。やっぱり可笑しいね。
財布の中身を整理する度に、溜まったレシートを捨てる度に、彼から貰った券も当然出てくる。そしていつも思ってしまう。
「もし今、大森くんに会えたなら」と。
ファミレスが定番だった私たちは、再会したらお酒を飲みに行くのだろうか
もし今大森くんに会えたなら、私たちはどんな会話をするのだろうか。
まず、どんなお店に入って何を食べるだろうか。というか、お店に入るのだろうか。
ああ、もうお酒も飲める年齢になったな。彼はお酒が強いのかなとか、色々考えてしまう。
7年前、当時中学生だった私たちはお金がなかったから、2人でご飯を食べる時はファミレスが定番だった。大きなデミグラスオムライスを大きな口で頬張る大森くんの姿をよく覚えている。
今はもう大人になったから、少し背伸びしてお洒落なお店に行けるかな。いや、またファミレスでデミグラスオムライスを頬張る姿、ちょっと見たいかもしれない。
人づてに聞いた話だが、彼はいま介護の仕事をしているらしい。中学生の時から人一倍優しかった彼には、ぴったりな職業だなと思った。
もし今大森くんに会えたなら、「仕事は順調?体調は崩してない?介護の資格は取れたの?」なんて、近況を聞きたくなってしまうかもしれないし、「あの時、私のこと好きだったでしょ?」なんて、当時の心境を根掘り葉掘り聞きたくなってしまうかもしれない。
そもそも、緊張してタメ口で会話ができるかどうかすら分からない。それでも、彼にもう一度だけ会ってみたい。
7年の時をどう過ごして、何を考えていたのか聞いてみたい。
いつも前髪を鬱陶しそうにする癖は今も健在だろうか。そんなことまで気になってしまう。
きっともう会うことはないと思う。でも、もし会えたなら券を渡して伝えたい
中学時代の甘酸っぱくて淡い青春は、もうすぐ22歳になろうとしている私の心の中でも、いつまでも浮遊しているのだなぁと思う。
多分、大森くんと会うことは金輪際ないと思う。もう連絡先も知らないし、SNSも分からないから繋がる術がない。だからせめて、こっそり券を使わせてほしい。
7年前、彼が尋ねてきた「私の欲しいもの」はきっと、今になっては「大森くんの幸せ」だ。
大きなデミグラスオムライスを大きな口で頬張る大森くんの姿はもう見られないだろうし、毎日のLINEのやり取りなんて絶対に出来やしない。
でも、もしも、もしももう一度大森くんに会うことが出来たなら、券を差し出して言おうと思う。
「大森くんが一生幸せでいることが、私にとっての一番のプレゼントだよ」と。