少女漫画にするには、少々甘さが足りない思い出がある。
当時の交際相手を「彼」と呼ぶのも嫌なので、Kに置き換えようと思う。
Kは中学生になって初めての彼氏だった。交際に至るまで複雑な経緯があるが、それを書き連ねると5万字は軽く超えてしまうので今回は割愛する。

中学1年生のカップルの唯一の接点はSNSのメッセージ機能

とにかく、Kの告白がきっかけで私たちは交際を始めたのである。
とはいえ中学一年生の時のことだ。キスやハグはおろか、一緒に登下校をすることさえ恥ずかしくてできなかった。クラスや部活も違うため、唯一の接点と言えばSNSのメッセージ機能。

当時私はスマホを持っておらず、家族兼用のタブレット端末でやり取りを行っていた。
しかし、それには一つ問題があった。両親からの使用制限がかかっていたのである。
テスト三週間前は使用禁止。夜十時以降は使用禁止。成績が下がったら使用禁止。一日三十分まで。その三十分というのは一瞬でもタブレットに触れたらカウントがスタートしてしまう。ちなみに母の機嫌が悪い場合にも使用できなかった。

だから、「今何してんの?」という問いに対して一日越しに返信するのもザラだった。事情を知っているとはいえ、相手は面白くはなかっただろう。
そんな中、付き合って四か月目でビッグイベントが訪れた。
そう、バレンタイン。
廊下ですれ違っても互いに目をそらしたり、小さく手を振ったりするようなピュアピュアな関係の私たちにとっては、かなりハードなイベントだった。けれど、カップルとして見逃すことはできない。

単純じゃないバレンタイン。やっと渡せたチョコのお礼はSNSのみ

確か、トリュフを作って渡した気がする。友チョコとはまた別に作ったものだ。
「口に合うかわからないけれど、作ったからよかったら食べて欲しい」という彼女にしてはかなり控えめな文面の手紙を添えた。放課後、部活が始まる前にKへ手渡した。
部員に中身を見せろとせがまれたそうだが、Kは頑なにチョコが入った紙袋を開かなかったという。

その日、メッセージが来た。「美味しかった」とのことだった。
SNSでのお礼のみで、Kはホワイトデーを華麗にスルーしたのである。
たかがそれだけのことだ。だが、ただでさえ少ない接点でホワイトデーが欠けてしまうのは寂しいことだった。バレンタインは「お菓子を渡す」、なんていう単純なものではない。
まず、甘いものが苦手ではないか、どんなものが食べたいのかを探り、次にレシピを探す(貴重なタブレット使用である時間の30分を使いたくないため図書館で)。さらに、材料とラッピングをお小遣いから捻出。やっと調理に取り掛かる。
また、完成してもどのタイミングで渡せばよいか頭を悩ます。最後の最後に「渡す」という行程にたどり着けるわけだ。

今となっては笑い話も、当時は憎まなければ立ち直れなかった恋

この一件をきっかけとして、私は夢から覚めた。
Kは野球の選手になることを目標としていたので、たとえ戦力外通告を突きつけられても暮らしていけるように、私が教師(公務員)になって家計を支えようと心に決めてしまうくらい好きだったのにもかかわらず。
Kの悪い部分がどんどん見えるようになった。逆にそれしか目に映らなくなった。それくらい悲しいことだった。

それから、徐々に連絡は途絶えるようになる。
二年生にあがって同じクラスになれたのに、同じクラスになってたったの三日目でフられた。恋人という関係が解消されるとKの態度が豹変し、聞こえよがしに悪口を言ってきたり露骨に避けたりするようになったのだ。ちなみに卒業までそんな態度をとられ続けた。
小中学生の恋愛あるあるだと思う。今となっては笑い話だけれど。

フられたきっかけは私にあるし、KもKなりに思うところがあったのだ。だから、Kばかりが悪いとはいえない。けれどKを憎まなければ立ち直れないくらい、私は弱かった。
唯一Kに感謝することといえば、教師を目指すきっかけをくれたということ。そのおかげで私は現在教育学部に在籍している。
次に会うのは成人式だと思うと、今から少し緊張してしまう。