高校時代、3ヶ月程だがスポーツ系の部活動に所属していた。入部当初、私を含む1年生は、教育係となった2年生の先輩男子部員に、指導をしてもらうことになった。
彼はとてもフレンドリーな性格な上、後輩の下の名前をいち早く覚えて「◯君」「◯ちゃん」と呼んでくれた。思春期になって、男子から下の名前で呼ばれることがなかったため、くすぐったかった。
後に、3年生から彼に対して、後輩を呼び捨てで呼びなさい、との指令が出た。そのため、急に彼からの名前の呼ばれ方が変わった。
部内での規則に則っているからだが、男子慣れしていない私は、またドキドキした。気付けば彼がプレーしたり、部活動終了後に皆の輪の中心にいるのを、少し離れた所から見ている自分がいた。真面目で優しい彼に恋をしたのだ。
だが、中学までとは違う競技を始めたことへの自分の中での違和感、費用面、学力の低下を危惧して退部した。
退部後も気持ちは変わらず、バレンタインデーに彼を呼び出した
退部後も、彼への気持ちは変わらなかった。
同じ部活動に入っていた子2人はクラスメイトであり、彼の情報はわずかであるが耳にしていた。顧問の先生と意見が合わず、真面目な彼が鬱になってしまい、一時休部した話を聞き、心配になった時期もある。退部したことで、彼との接点はメールだけになったが、様子を伺うメールを送ることもあった。
募る彼への思いを伝えてスッキリしたい気持ちが増し、バレンタインにチョコレートを渡す決意をした。
友チョコと同じものだが、出来の良いものを、友人の分より多めに用意した。おそらく、トリュフか生チョコを作った。バレンタイン数日前に彼にメールをし、当日の放課後に彼を呼び出した。
「チョコレート、良かったら受け取って下さい」と言い、チョコレートを渡した。受け取り後にお礼を言われ、その場は終了した。その日の夜、その場では言えなかった思いをメールに託した。
「今日はありがとうございました」の後、1スクロールさせた後に見える位の行間を空けた後、「バレているかも知れませんが、ずっと好きでした」と書き、送信した。
その日の内に返信が来て「なんとなく、好きでいてくれているのは気付いていました。ありがとう。でも僕より良い人がいるはずだよ」と、振られてしまった。
ショックは受けたが、彼の気持ちにも気付いていたので、最後まで優しい言葉を選んで対応してくれたことに感謝した。
ミサンガが切れたと突然の連絡。彼の誠実さに、当時の恋心を思い出す
時は経ち、私が大学に入学して数ヶ月の頃、突然、彼からメールが届いた。恐る恐るメールを開いた。
「久しぶり!ミサンガが昨日、切れたよ!そういえばどこの大学に進学したの?今度ご飯でも行こう」との内容だった。
実はあのバレンタインの日、チョコレートと共に、手作りミサンガもプレゼントしていたのだ。初めてのミサンガ作りで、不出来ではあったが、気持ちは込めていた。
渡してから数年が経過しているのに、振った相手が作ったミサンガを、ずっと付けていたことに驚いた。捨てているか、もし身に付けていても、連絡してくるとは思ってもみなかった。
想定外の出来事と、彼の心の内が読み切れず、返信に頭を悩ませた。悩んだ末に「連絡をありがとうございます、◯◯大学です。ぜひご飯に行きたいです」と無難な内容で返信した。
返信も虚しく、その後の彼からの連絡、及びお誘いはなかった。ぬか喜びに終わったが、彼の変わらぬ誠実さに触れ、当時の恋心を思い出す、良い機会となった。
高校を卒業して10年以上が経過して、さすがに未練はないが、ふと彼は元気だろうか、と考えることはある。
バレンタイン当日に告白することが、ベタすぎて抵抗のある人は少なくないだろう。しかし、思いを伝えられぬまま離れ離れになり、「あの時告白していたら」と後悔するよりは、行事ごとに乗っかり、勇気を出して行動するのも良いのではないか。