安い投資で高いリターンを得る、お返しガチャと化したバレンタイン

「A先生に手作りチョコあげたら、お返しにゴディバのチョコ返してくれた!イケメン!」
と、高校2年生のバレンタインが過ぎた後、友達が教えてくれた。
「いいなー、私がチョコあげたB先生からのお返しは、チロルチョコだったよ、来年は私もA先生にチョコあげようかな」
来年、バレンタインのチョコレート交換禁止令が出るとはつゆ知らず。
もはやいかに安い投資で高いリターンを得るかという義理チョコや、友チョコを通り越したバレンタインお返しガチャと化した会話が、高校2年の私のバレンタインの思い出だ。

高校1年の時はここまで酷くなかった。友チョコと称して、女子同士でチョコを交換するだけ。
共学の高校だったけど、男子に対してチョコは渡さない。そんなことをしたらカップル成立?!とからかわれるから。男子から欲しがる視線はちょっと感じていたけど、お返しがしょぼいことはわかっているからチョコなんてあげません。
付き合っていることをみんなが知っているカップルだけはチョコを送りあっていた、と聞いているけど真偽は知らない。
だって交換したチョコレートを食べるのに忙しかったから。

高校1年生までは、女子同士で自分の手作りチョコを交換していた

つまり、高校1年生の私たちのバレンタインデーとは、女子同士で自分の手作りチョコを交換する日だったのである。
お互いにチョコを交換して、プロ並みに美味しいチョコレートに戦慄したり、生焼けのブラウニーを食べなかったことにしたりと、女子の友情が深まったり深まらなかったりする日がバレンタイン。
もはやどこかの会社がチョコレートを売るための口実として作った、女子が男子にチョコを渡すという習慣はどこかに行って、女子のお菓子交換会の日がバレンタインデーだった。結局チョコは買ってるけど。
そんな中、先生にチョコを渡して高額なお返しをもらい、味を占めた同期が発生した。
そして冒頭の会話に至る。
私は幸か不幸か、高校1年の時に先生からは変な石鹸しかもらえなかったので、高校2年は友チョコに全力投球して、同期の渾身のチョコレートを味わうことに専念していたので、ゴディバをもらい損ねた。

バレンタインが楽しかったのは、友達と特別な交流ができるから

高校3年かぁ。私の場合、大学受験はバレンタインより前に終わるから、チョコ作れるだろうなぁ。先生に渡してゴディバもらおう。
……と、私が下心だけで来年の義理チョコ、否、ゴディバのための投資チョコの計画を立てていると。
「ねえ知ってる?Cさんって、部活とクラスに配るためのチョコ、お母さんとお姉さんに手伝ってもらって作ってるんだって!バレンタインの前一週間はチョコ作りにかかりきりなんだってさ!」
友人から特大の爆弾が放り込まれてきた。
「えっ、やりすぎ……業者じゃん」
私の頭からゴディバのことなんて吹っ飛んでいった。そして私はバレンタインが、なんだか薄気味悪くなってしまった。

バレンタインが楽しかったのは、友達とチョコレートを通じて特別な交流ができるから。部活以外では基本ぼっちの私が、作り過ぎたチョコレートを適当にクラスメイトに渡すことで発生するチョコの交換で、クラスメイトの意外な一面を知れるからだったのだ。
だから、Cさんのバレンタインに対する本気すぎる態度が、単に友達と仲良くなるというより、バレンタインのチョコを渡せなければ自分の居場所を失うと信じているかのように思えて、私は気味悪くなってしまったのだ。

結局のところ、私が高校3年生になった2月の初めに、私の高校ではバレンタイン禁止令が出た。
ゴディバはもらえなかった。でも、投資チョコや業者みたいにチョコを作る人が存在しないのは、なんだかスッキリした気分だった。