突然始まった友人からの無視。母を悲しませないため隠すことにした

中1の春、小学生の頃から一緒に過ごしてきた友達数人から、突然嫌われた。
ある友達に聞かれた授業の情報が、私のクラスと彼女のクラスでは違ったようで、それを「嘘をついた」と認識された。
というのが私の思い当たるきっかけではあるが、真偽は不明。違う情報を伝えてごめん、と言う間もなく(そもそも謝ることなのかも謎だが)、彼女達により悪いイメージが広められた。
基本、無視。視線を感じる先を見ると、何か小声で話し笑っている。近所の友達には登下校でも逃げられる。
疑問、怒り、寂しさ。心はぐちゃぐちゃだった。
最も辛かったのは部活だ。小学生時代の約束で、彼女達の大半と同じ部活に入ったばかり。私を嫌う人達と密に過ごす時間は、ひどく憂鬱だった。

ただ、私に「逃げる」という選択肢はなかった。理由は、母だ。
母は子どもが大好きで、私はもちろん、私の友達も大切にしてくれていた。その友達に嫌われたなんて発覚したら、母はどんなに悲しむだろう。
私は、この非常事態を母に隠すことに決めた。
なぜ友達と一緒に登下校しないのか聞かれた時は、「朝練に行った」「先生に質問してた」などと適当に誤魔化した。母も異変に気づいていたとは思うが、それ以上何も聞いてこなかった。

ひとりでいることには収穫もあったけど、本当は心に蓋をしていた

ひとりで過ごす時間で、新たな発見もあった。
登下校、自分の心地よい速度で自転車を漕ぐのは気持ちいい。
休憩時間、本の世界に没入すれば周囲の視線を感じず、あっという間に時間が経つ。
部活は上下関係が厳しく、練習中に1年生が私語をしようものなら先輩に叱られる。つまり、話さなくてよいのだ。ひとり黙々と練習し、次第に上達していくのも嬉しかった。
テスト前、彼女達は一緒に勉強するという口実で集まり、遊んでいたらしい。私は、ひとりで勉強に集中したおかげか、自信を持ってテストに挑めた。実際、結果は満点に近く、私の点数を盗み見た彼女達は、陰で驚いていた。

私、ひとりでも大丈夫だ。

そう思えば思うほど、周りで談笑する同級生達が羨ましくなった。
やるせない気持ちが湧き上がる度、心に蓋をし、必死に自分を保とうとした。

突然現れた2人の救世主。諦めていた「友達」という存在に涙があふれた

しばらく経った頃の放課後。
突然、「ちょっと話したいことがあるんだけど、いい?」と声をかけられた。相手は違うクラスのA。それまで全く話したことがなかった。
緊張しながらついて行った先は、女子トイレ。
「これ、いじめのドラマでよくある、水かけられるやつ?びしょ濡れで帰ったら、流石にやばい……」と絶望していると、Aの口から出たのは、予想外の一言だった。

「さなぎさん、〇〇達から避けられてるでしょ?私、〇〇達にさなぎさんの話をされて、一緒に避けようって言われたんだ。でも、Bにその話をしたら、怒られたの。『直接話したこともないのに、何でそう思うの?さなぎ、すごく優しい良い子だよ。避けるとか許さん!』って。その後、〇〇達にも直接怒りに行ってさ」

衝撃だった。
Bもクラスは違うが、実は小学生の頃習い事で出会っていた。中学で再会し、「またよろしくね」と話していた。確かに物事をハッキリ言うタイプの子だとは思っていたが、まさかそんな行動をとるとは。
Aは、さらに予想外の言葉を続けた。
「直接話したこともないのに、〇〇達に流されて、避けようとして、ごめんね。もし良かったら、私と友達になってくれない?」

友達。諦めていた存在。
ゆっくり頷く私の目から、涙がこぼれる。
今まで蓋をしてきた感情が、ぶわっとあふれ、言葉にならない。
Aは、私が落ち着くまで傍に寄り添ってくれた。
「じゃあ、またね」
また、会える。大きく頷いた。

勇気を持って「ひとりじゃない」と教えてくれた2人に感謝を伝えたい

それからというもの、AやBは、すれ違うといつも声を掛けてくれた。それだけで気持ちが晴れ、私はひとりじゃない、と思えた。そのうち、気の合う親友ができ、孤独にさいなまれることはなくなった。
結局、AやBとゆっくり話す機会はほとんどなく、それ以上に仲を深めることはなかった。違う高校に進学して接点がなくなり、今は連絡も取っていない。

人間関係の悩みは、高校生以降も大小様々何かと付きまとってきた。その度、AとBが、いかに勇気を持って行動してくれたのかを思い知らされた。今でも脱帽だ。
私にはそこまでの勇気はないものの、2人のように、人の噂話に揺るがず、自分が直接関わることで得た情報を信じる、と心に決めている。
そのおかげか、出会いに恵まれ、今は大好きな友達に囲まれている。友達って有難い、と思えるのは、あの経験があったからに他ならない。

「ひとりでも大丈夫」と「ひとりじゃない」。
一見矛盾する2つの思いが私を支えてくれた。
そして、「ひとりじゃない」という思いを与えてくれた、AとB。

もし今2人に会えたなら、あの日言葉に出来なかった感謝を伝えたい。
私は、あなた達の勇気に救われました。
おかげで今、笑顔で生きています。
ありがとう。
またね。