人生の中で、“この人とはこれからもずっと関係が続いていくんだろうな”と思える人は、私には数人しかいない。彼女はそのうちの1人だ。
“友達”と呼ぶのは薄っぺらい、“親友”と言うのもむず痒い。数ヶ月連絡をとらないこともあるけれど、たまに会ったときには違和感なく、まるで昨日も会っていたかのように話し始めることができる。この関係をうまく言葉にできないので、ここでは“彼女”と呼ぶことにする。
私たちは毎日の登下校で、お互いの好きな本やブログ、恋愛について話した
同級生の彼女と出会って、15年になる。中学・高校と同じ運動部に所属し、自転車での登下校を共にした。彼女はたくさんの本を読んで、たくさんの言葉を知っていた。その豊富な語彙から紡ぎ出される彼女の発言に、笑いが止まらずに息が苦しくなるときもあれば、ハッとさせられるときもあった。そんな彼女に、私は憧れていた。元々好きだった、本を読むこと・文章を書くことが、彼女のおかげでもっと好きになった。いつからか、私たちは当時流行し始めたブログを書くようになり、彼女に会っていないときも彼女の言葉を楽しんだ。彼女から将来の夢を聞いたことはなかったが、彼女は将来作家になるのだろうな、と勝手に思っていた。
私たちは毎日の登下校で、お互いの好きな本やブログについての話と同じくらい、恋愛についての話をした。それぞれの恋における、胸を躍らされたり、心が粉砕されたりというような感情を伝え合った。
「“Better late than never.”」と彼女は言った
高校生活も終わりに近付き、私は、約2年間片思いをしていた人に、自分の思いを伝えるか悩んでいた。彼と私はそこそこ仲が良かったと思う。しかし、お互い遠く離れたところに進学することが決まっていた。この恋が実ったとしても、すぐに遠距離恋愛になってしまう。耐えられる自信なんてなかった。告白して気まずくなるくらいなら、長期休みに共通の友人も交えて楽しく集まるくらいの関係性でいいかなとも思った。しかし、進学した地で彼に恋人ができてしまったら…。想像するだけで眉間に力が入った。
寒い中自転車を漕ぎながら、思っていたことを全部口に出すと、彼女は私に言葉をくれた。
「“Better late than never.”ってやつだよ。遅くなったとしても、行動しないよりはいいんじゃない?」
私の心の中のモヤモヤしたものが薄くなっていった。そうだ、遅かったとしてもいい。行動しよう。この気持ちを、この2年間を、無かったことになんてしたくない。
私は告白することに決めた。その恋は実った。もちろん、一番最初に彼女に報告した。
私もいつか、文章を書く仕事がしたい
その後、私と彼女は別々の道に進んだ。私は医療関係の仕事、彼女は本に関わったり、文章を書く仕事に就いている。
“Better late than never.”は常に私の心の中に在った。行動する前にあれこれ思い悩み、結局何もできないことが多かったが、「行動力あるね」と言われることが徐々に増えてきた。
彼女とはしょっちゅう、電話をしたり会ったりして、お互いの近況報告をしている。一緒に登下校していた頃のように、毎回話は止まらない。
私は相変わらず本を読んでいた。文章もときどき書いてはいたが、公開はしていなかった。
私もいつか、文章を書く仕事がしたい。小学生のときからの夢は、ひっそりと心の中に存在し続けていた。
昔から、彼女には何でも話すことができたが、これだけは誰にも、ずっと言えなかった。
誰にも言えなかったから、親や先生に勧められた進路を選んだ。
彼女のくれた言葉を大事にしながら、私は私の言葉で書き続けていく
つい先日、彼女とZoomをした。お互いの仕事の悩みを話した。愚痴を言った勢いもあり、私は自分の夢を彼女に語った。直後に後悔した。
文章を書く仕事を本業にしている彼女が、全く違う仕事をしている傍らで文章を書きたいなどという私の願望を聞いたらどう思うだろうか。
「いいじゃん、書いてみたら?のなよが昔書いてたブログ、私好きだったよ」
彼女の発言に驚いた。文章を書くこととは全く違う仕事をしているのに、書くことの勉強もしてこなかったのに、そしてもうアラサーに片足を踏み入れている年齢だ。そんな、夢を叶えられない言い訳が次々と出た。
「“今さら”なんてないよ。大丈夫」
そう彼女に言われ、あの言葉を思い出した。
“Better late than never.”
そうだ、遅かったとしてもいい。行動しよう。彼女が教えてくれたのは“かがみよかがみ”。
そして私は今、これを書いている。
彼女がくれた言葉に何度も励まされてきた。そういえばあの頃は、私が先頭で彼女が後に続く形で自転車を漕いでいたなあと思い出す。彼女の言葉はいつも、追い風のように私の耳に届いていた。
彼女のくれた言葉を大事にしながら、私は私の言葉で書き続けていこう。