拝啓 小学5年生の私へ。
あなたに今の状況を伝えたら、びっくりするかもしれない。

人と話すのが嫌いでいつも1人。いじめられ、自分の殻に閉じこもった

突然ですみませんが、少しだけ聴いて下さい。
あなたは一人っ子だったせいか、今考えると超がつくほどマイペースでしたね。休み時間は外で遊ばず図書館で歴史漫画を読み続け、大人しいかと思いきや運動会の応援団に立候補。クラスメイトと何を話したら良いかも分からなくて、人と話す時間が大嫌いでした。
だいたいの時間を1人で過ごし、気づいたら友達と呼べる子は誰もいませんでした。
そんなあなたはクラスでいじめられるようになり、ますます自分の殻に閉じこもっていきました。なんだか変なあだ名がついていますよね。その意味は今の私にも分からないので気にしなくていいと思います。

学校に本当は行きたくないけど、正直に親に話すのも面倒くさい。
だから、確か将来の夢は、なるべく周りと関わらない環境でゆっくり過ごす事、ですよね。当時好きだったテレビ番組を見て田舎の生活に憧れていたから、山ごもりとかいいなあ、とか思っているはずです。

いじめから救われ、ほんの少しだけ、人に興味がもてるようになった

今日伝えたかった事。それは、5年生のあなたが感じている気持ちは来年大きく変わるよ、という事です。
6年生になって少し経った頃、クラスメイトの1人がいじめの事を先生に告げ口します。その日を境に、あなたへのいじめはなくなった……とまではいきませんでしたが、だいぶ収まりました。
告げ口をしてくれた女の子、実はクラスメイトのいない時を見計らって、私に声をかけ続けてくれていました。たぶん今後図書館でも何回も見かけるだろうし、ずっと気にかけてくれているみたいです。
けれどあなたは、誰の事も信じる事が出来ずに、彼女のこともシャットアウトしていますね。

いじめが収まったあの日、私はその子と初めてきちんと話す事が出来ました。と言っても私が大号泣してしまったので、ほぼ会話になっていませんでしたが。
放課後の誰もいない女子トイレの洗面台の前で号泣する私に、彼女は優しく寄り添ってくれました。その時初めて「人と関わるってこんな嬉しいこともあるんだ」と思う事が出来ました。
それまで周りとの関係をとことん断ち切ってきて、人と話す事も大嫌いだと思ってきました。けれど、ほんの少しだけ、人と関わるっていいな、他にどんな人がいるんだろう、なんて周りの人に興味をもてるようになれました。

一転して人と関わるようになり、辛い時もあの子に救われる

それからの私は、今までの状況を一転させ、様々な人と関わるようになりました。
中学校では運動部に入り、団体戦に出て、誰かのために頑張るという嬉しさを知りました。高校では初めて災害ボランティアに参加し、「ありがとう」という言葉の温かさに思わず涙してしまったこともありました。
大学では様々なアルバイトを経験しました。きっとこれを読んでいるあなたは想像出来ないと思いますが、奇しくも私が選んだアルバイトは全て接客業でした。
動物園のモノレール誘導係から始まり、百貨店でのチョコレート販売員、薬局事務、スポーツ教室のアシスタントなど、気づいたら人との関わりが重要な職種ばかり選んでいました。人との関わりが少ないアルバイトは他にもたくさんあったのに。
もちろん嫌な人にも沢山出会ったし、昔のことを思い出して泣いたこともあります。人間関係がこじれて、やっぱり1人のほうが楽だ、なんて思う時もあります。
けれど、最終的にはあの日の出来事が浮かんで、もう少し頑張ろうと思える。私にとって小学6年生の出来事はとても大きかったんだと今でも実感しています。

小学5年生の自分に、過去は乗り越えられるよ、と伝えたい

社会人になった私は今、薬剤師として患者様と向き合っています。
ちなみに、あの日声を上げてくれたあの子は、医師として患者様に向き合っています。なんだか運命を感じますね。
嫌なことも辛いこともたくさん経験したけれど、私はまだこの仕事を続けられています。
今の目標は、誰かの役に立って一緒にいる人を笑顔にすること。だいぶ変わったでしょう。この文章を読んでいるあなたに勇気を持ってもらうために。こんな過去があってもちゃんと乗り越えられるよって伝えられるように。

これをあなたが信じてくれるかはわからないけれど、人と関わるって素敵なことだよ。
仕事は大変だけれど、私は前を向いて歩き続けています。
そして、これからもずっと。

追伸 今でも田舎暮らしに憧れています。実現したらまた報告するね。