私は塾講師のアルバイトをしている。
「塾講師って、ブラックアルバイトっぽい……」
「授業のコマ数、増やされそう……」
と思った人がいたとしたら、その考えは間違っているとは言えない面もある。

でも、
「シフトを無理やり変えられた!」
「☓印つけたのにシフト入れられてる!」
……なんてことは、どのバイトでも日常茶飯事である(…と私は感じているのだが真実は如何に?)。

私のアルバイト先は、無理やりシフトを詰め込まれたり、アレヤレ!コレヤレ!といったような強制的な労働はない。
でも時々、「これはやりがい搾取ではないか?」と思うことがある。

私のシフトは週に3日。定期テストや夏期講習になるとコマ数も多くなり、アルバイトへ行く日数も自然と多くなるのだが、通常は3日間のみだ。
特にカッチリとした塾のルールがあるわけでもなく、「先生がしたいようにしていいよー」みたいな割とアットホームな塾である。

そのような空気が周囲には噂として広まっているのかは定かではないが、入塾者はそこそこ多い塾である。
生徒たちも自由に自習することができ、休み時間になると、わからない問題を積極的に聞きに来てくれる子が多い。
夜なのに、常に明るいオーラで包まれているような塾である。

だからこそ、気づかないのかもしれない。
やりがい搾取には。

突然増やされるシフト。おだてるような褒め言葉。イヤと言えない私

私がやりがい搾取と感じ始めたのは夏期講習だった。
夏期講習の場合、夜だけではなく昼から塾をやっていることも多い。また、受験シーズンは夏期講習に講義を取る生徒も多くいる。
そのため、塾には多くの生徒が集まることになる(もちろん、今の御時世では密にならない程度に人数調整をするのだが……)。

ある時、塾に行ってみるとコマ数が勝手に増やされていることに気がついた。
「あれ?」と思い、塾長に聞いてみると「ごめん!追加しちゃった!」と言われるだけである。

準備も大してしていないのに、いきなり教えることができるのか…?と不安そうな顔をしていると、
「生徒がすもも先生の授業を受けたいって言ってたよ!」
「すもも先生はうちの塾のホープだから!」
「みんなすもも先生の授業が好きだから大丈夫だよ!」
と言われるだけで、会話は続かず。

1回ならまだしも、これが何回も続いてしまったから恐ろしい。
塾長はというと、1週間に2コマぐらいしか授業が入っていない。
え?それでいいのか?と思っていたが、これは暗黙の了解であった。
一方、私のコマはどんどん増えていくばかりである。流石におかしいなとは思っていたが、「嫌だ」と言う気にはなれなかった。

教えることが好きだから。今は「やりがい搾取」をやり過ごす

その時、私は自分が「やりがい搾取にやりがいを感じている人間」なのだと気がついたのだ。
「すもも先生には期待してるから!」
「すもも先生の教え方はうまいから!」
このような塾長の言葉に私は絆されてしまった。

一方で、
「すもも先生の話、面白いね!」
「すもも先生の説明だと分かりやすい!」
「高3になっても先生から教わりたい」
と言ってくれる生徒が私にはいるのだ。

私は生徒に勉強を教えるのが好きだ。
生徒の成長を見るのが好きだ。
生徒が私の話を聞いて笑う顔が好きだ。

この「好きだ」という気持ちが私の原動力なのかもしれない。
でも、このあふれるばかりの生徒への愛を利用して、塾長はやりがい搾取を企てているのかもしれない。
事実は不明ではあるが…

そんなアルバイト生活にも慣れて、今となっては生徒の喜ぶ姿、笑う顔を見ることが私の生活の一部である。
そのような生徒たちの姿が私の幸せなのだ。
私はやりがい搾取からの脱却を望んでいるのではなく、むしろやりがい搾取への埋没を望んでいるのかもしれない。