向いていないんだ。
決定的に相性が良くないんだ、この仕事と。
だからこんなにできないんだ。
そう思って、涙が止まらない日もあった。つらくて情けなくて悲しかった。
あの頃、自分のキャリアをゲームオーバーだと勘違いせず、黙々と耐えた自分を褒めてあげたいと思う。
反骨のばねを失った私の心は、指摘されるたびに萎むばかりだった
今の職場に意気揚々と転職してきたのが2019年の秋。望んでした転職であり、はじめの頃はそこまで強いストレスを感じることなく、健やかにポジティブに働いていたと思う。
しかしそれから数ヶ月経ち、自分の至らなさが見えるようになって、風向きが変わった。
どのように至らなかったか。新卒ではないのに、新卒の人が言われるようなことを指摘された。
報告するときは結論から話すように。あなたは報連相が下手だ。挨拶は社会人の基本だ。あなたの管理能力には危ういところがある。
単純なスキルの無さも否応なく自覚させられた。業務知識が足りない。それを埋める努力をもっとしないと。今のあなたに私のやっている仕事は任せられないよ。クライアントに気を遣わせている。誰それはこの間資格を取っていたけどね。
たぶんここ2年で叱られたり注意されたりした回数は、それまでの人生での合計を超えるんじゃないかと思う。
心身健康な状態であれば「なにくそ!」と頑張れたのだろうが、パンデミックやら何やら、予定外のことが色々と重なって、わたしの心はすっかり反骨のばねを失っていた。指摘されるだけ指摘されて、わたしの心は萎みっぱなしだった。
向いていないんだ、この仕事に。
いや、もしかしたら、社会に出て働くこと自体に。
強めの失敗をして強めに叱られた後は、そんなふうに思えてならなかった。
ほとんど初めて一人で決めた転職だから、今のまま去りたくなくて
正直、向いていないのかも?とは今でも思う。
転職してきてもうすぐ2年半が経とうというのに、いまだに確たる手応えがない。
今までの人生の中で、こんなに上達が遅く感じられることは他になかった。前職でもここまでの無力は感じなかった。
転職したこと自体を後悔したことはないけれど、自分の向き不向きを見誤ったのかも、という疑惑は何度か頭をかすめた。
転職をあおりたがるエージェントや代理店にわたしから助けを求めたら、彼らは喜んで他業界他業種の求人をどっさり紹介してくれるだろう。
それでも、もう一度転職しようとは思わなかった。結局今の職場に来たことは、人生でほとんど初めて「一人で決めたこと」に近かったし、いつかここを去るとしても、「何もできなかった」という敗北感の中で去りたくはなかった。
そんなこんなでしんどいしんどいと言いながら働いてきた。
最近少し状況が変わってきた気がする。
自分が感じてきた負担が、少しだけ軽くなった気がするのだ。固くて固くてびくともしなかったビンの蓋が、少しずつ回り出したときのような感覚がある。
はっきりとした原因はわからない。仕事内容が大幅に変わったとか、仕事で関わる面々ががらりと入れ替わったとか、自分を明確に有利にする資格を取ったとか、そういったことは一切起きていない。
だから、自分が少しずつ少しずつ積んできた経験値が、目に見える形で花開き始めたのだろうと思うことにしている。
最適解じゃなくても、時間をかけて経験値を積む。これが私のやり方だ
この一連の流れを表す言葉はなんだろう、と考えたときに真っ先に頭に浮かんだのは、
「レベルを上げて物理で殴れ」
というフレーズだった。
バトルゲームで時々使われる言葉。バトルゲームには単純な攻撃力、防御力とは別に「相性」が存在することが多い。自分のレベルがまだ低くても、相手との相性さえ良ければ、高レベルな敵を倒すことが可能だったりする。
一般的には、相性の有利不利がいかに本来のレベル差をひっくり返せるか、その塩梅が絶妙であるゲームに対して、「ゲームバランスが良い」などと賛辞が送られる。実際、そういった相性を気にしてゲームを進める方が効率的だし、ゲーム特有の全能感を感じやすく、プレイしていて気持ちが良いだろう。
でも別に、不利相性のまま敵に挑んだって、即「詰み」になる訳ではないのだ。
効率を求める人よりも少し時間はかかってしまうかもしれないけれど、経験値をたくさん積んでレベルを上げて、相性と関係ない基礎値を底上げすれば、たいていの敵には一番基本の物理攻撃が通用するようになる。
時間をかけて自分の基礎を叩き上げるプレーヤーがいても良いと思う。たとえそれが、最適解でないとしても。
前に比べて少し楽になったけれど、きっとまたすぐ新しい壁にぶつかって、やっぱり向いてない、自分には無理だと泣くことになるかもしれない。というか、高確率でそうなるだろう。
その想像をしても、わたしは以前より平静でいられる。悔しかったら、負けたくなかったら、耐えて、耐えて、その間にちょっとずつ経験値をかき集めるのだ。そしていつか、「レベルを上げて物理で殴る」。決してスマートではないけれど、腹さえくくればこっちのものだ。